女流作家 1
彼女の名前は梅田千春。
雑誌に小説を掲載している。といっても、さほど有名ではなくページの余白を埋めるために載せられているようなものだ。
そんな千春でも有名になりたいという気持ちはある。
だが千春の書く小説ははっきりいってつまらなく男女の恋愛事情をつらつらと書いているだけ。
ほとんどの読者は目に止めることもしない。
「どうしたら売れると思います?増井さん」
ファミレスで次回作の打ち合わせを担当者の増井としていた千春は口をとがらせる。
「千春ちゃん、23歳で作家デビュー出来ただけでも喜ばなきゃ。」
「そうだけどさー、」
少し長めの綺麗な黒髪を指にからめ弄ぶ。
千春は作家にしてはもったいない位の美貌の持ち主だった。
かわいらしい大きな目と少し厚めの唇。
胸も大きくはないが綺麗な形をしていてお腹もくびれている。
美女といってもおかしくはなかった。
「そういえば千春ちゃん、前言ってたコトなんだけど…考えてくれた?」
増井がおどおどしながら切り出した。
「私、官能小説は書く気ありませんから。」
「でもね、そっちを書く方が絶対読者の目にはとまるよ?」
千春自身も官能小説の方が読者が多いことは分かっていた。
だがそれに手を出すのは勇気がいる。
「一回書いてみない?最初の設定はこっちが考えるからさ、ね?」
増井からの提案を拒否してみたものの千春は作家の仕事だけでは生活していけない。
今月もかなりギリギリの線だ。
「ね?千春ちゃん。」
「はい…、んじゃあ1回試しに書いてみようかなぁ」
「よかった!でも千春ちゃんそういう事詳しい?取材とかしなくて大丈夫?」
「詳しくはない…
人並にはあると思うけど書くとなったら…」
「それじゃあ今からちょっと行こうか」
そう言うと増井は席をたちあがる。
「今からですか?」
千春も慌てて荷物を持ち増井についていく。
その時増井が笑っていることに千春は気づかなかった。
「千春ちゃんは何回位経験あるの?」
取材へ向かう増井の車の中で沈黙を破る。
「…はい?」
唐突な質問に驚く千春。
「男性経験の数だよ。そういうのも大事でしょ?」
大事なのかなぁ…
そう思いつつ頭の中で数えてみる。
「10回前後かな。それって多いです?」
「いやいや、その年頃にしては少ない位だよ」