幼なじみ 56
泣きやまない愛香を抱きながら、ヒロは優しく愛香の耳元で話してきた。
「あの後…愛香が帰ってからしばらくは公園で話してたんだ。ゆかりのやつ…俺のことを諦めないって言って…。腕を掴まれて家に帰してくれなくて…で、俺ん家に連れていってくれたら諦めるって言ったから家に連れてきたんだ…。ここでちゃんと愛香に連絡をしとけば良かったのに…不安させてごめんな…。」
愛香はふるふると首をふる。
「で…問題はその後だよな…。すぐ帰るかと思ったらあいつベッドに座りやがった…。だからゆかりを帰そうと腕を引っ張ったんだ。そしたら力が入ってなくて逆に引っ張られて……で…ゆかりの上にのる形になって…」
そこまで話すと愛香も見たことを思い出したようでまた泣き出した。
「ごめん愛香!でも誤解なんだ!上に倒れこんだらあいつがキスしてきやがった…。事故だ…。気持ちなんてこもってない…愛香信じてくれ…」
愛香は泣きながらもわかってるというようにうんうんと頷いた。
その仕草に愛香もわかってくれたのかとほっとしたがヒロは愛香の次の言葉で凍った。
「グスン…そこまでは…事情わかった…よ?…っく…でもヒロ…その後…そのあとは?…なっ…んで…ふぇっ…うぅっ…ひどいよ…」
その後?やっぱり愛香に聞こえてたのか…
くそっ!ゆかりのやつ…
ヒロは愛香を落ち着かせるようにゆっくり話だした。
「声聞こえたのか…。信じてもらえるかわからないけどあいつはわざとお前に聞かせる為にあんな声出したんだ…。俺は何もしてない。あの後ゆかりをすぐに追い出した。」
ヒロは愛香を抱き締め背中を撫でながら続けた。
「実際見ていたらあいつがただ声出してただけで誤解ってわかるだろうけど、愛香見てなかったよな。声だけしか聞いてないだろ?俺とゆかりは何もしてないよ…。本当だけど何も証明するものがないよな…。あんなのを聞いて信じろなんて言われても無理だよな…。」
ヒロの声は悲しそうだった。
ヒロは嘘は言わない…。でも…じゃあ、あの子の言ったことは?
確かにやましいことがあったら本当のことなんて言わないよね。
…でも…それよりも私はヒロよりあの子を信じるの??
何が正しいのかわからない…。
キスしているところは見た…。でもそれは誤解…。確かに…あの時のヒロは不自然なように見えた。
でも声は…?二人の状況は見てないけど…声聞こえた。
あの子がわざと出しただけ?
あの後部屋を飛び出したからわからない。
何も言わない愛香に溜め息をつくようにヒロが話した。
「ごめんな…愛香…。俺…泣かせてばかりだ…。ゆかりに言われたよ。あんな声聞いて何もないなんて信じてもらえるかってな。…そうだよな。信じろって言われても難しいよな…」