ドコにもいかないでね… 6
"サンポ、イク"
書き殴られたメモが枕元に置いてあった。
俺はその乙女ちっくな書体に微笑まされる。
紗のカーテン越しに陽の光が揺れている。
昼近くだというのに、その空気は澄んでいた。
俺は大きく伸びをし、首をゴキッと鳴らした。
オンナを抱くのは久しぶりだった。
特別に禁欲的生活を自分に化していた訳ではなかったが
ナンパや風俗といった、気持ちの入らないセックスは昔から腰が引けた。
足元に捨てられた、丸められたテッシュの隙間から使用済みのスキンが覗いていた。
(俺は雛を抱いたんだ・・・)
その思いが日溜まりのような温かな世界に誘い、俺は1人ニンマリと頬を上げた。
俺はフンフンと鼻歌混じりに、冷蔵庫から食材を見繕い、フライパンを振ったりもした。
実家に持って行こうと思っていた、引き出物でもらった銀のスプーンをおろしたりもした。
洗面所のカゴに溜まった洗濯物を、雛のそれと一緒に回したりもした。
しかし、時間だけが過ぎていった。
料理は冷めて、生野菜はその量を半減させていた。
銀のスプーンは食卓に妙に浮いて見えていた。
窓辺に干したトランクスは、雛のショーツと風に揺れ、完全に乾いていた。
夕刻を過ぎても、雛は帰ってはこなかった。