お隣さんは声優さん 2
それまでアニメは暇つぶしに見る程度のものだったが、りおなんが隣人となって以来、湯原里緒菜の名前が載っているものは積極的に追いかけ、結果的にアニメも以前より熱心に見るようになった。今ではアニメを見るのが当たり前のようになっており、湯原里緒菜のファンになっていた。
だがそんなことは彼女は知らない。知られてはいけない。
さっきりおなんは「現場」と言っていた。声優はアニメやゲームの収録のことを現場ということが多いらしい。それをわざわざバイトと言い換えたのは自らが声優だと知られるのを避けているのだと感じた。俺はその意思を尊重したい。それに隣に住んでいるのがアニオタだったとわかったら、りおなんにいらぬ心労を与えてしまいかねない。だからさっきはコンビニの弁当に言及されて焦った。アニメのラバーストラップが入っているのに気づかれたらアウトだった。俺はこのまま、人畜無害な隣人でいいのだ。
……というのは詭弁だ。ホントはそんな気遣いで黙っているのではない。これはただのエゴで、下衆な下心だ。俺にはもっと知られてはいけない秘密があるのだから…
―その日の夜。明日からまた仕事が始まる憂鬱感に苛まれる魔の時間。しかし今はそれ以上に期待と興奮で胸が高鳴っていた。夕飯を手早く済ませ、ベッドに寝ころんでマンガを読みながらその時を待った。
「あっ…………んっ」
来た!
室内にかすかな声が響いた。マンガをベッドに置き、物音を立てないよう忍び足で歩く。ベッドと反対側の壁に近づきそっと耳をあてると
「んっ………あんっ♪んっ……ああっ♪」
接近したことでより声が大きく聞こえた。声がするのは一番端の部屋。つまりりおなんの部屋。この声はりおなんのものに他ならない。鼓動が速まり、下腹部に血が立ち上ってくる。呼吸が荒くなりそうになるのを必死で堪えて、息をひそめて壁に着けた耳に意識を集中させる。股間が「早く俺を扱け」と急かしてくるが、不用意に音を立てたらバレかねないのでじっと我慢する。