ヤケクソPと崖っぷちアイドル 1
あるシティビルのひと区画に、中堅芸能事務所「アクアエンターテイメント」のオフィスは存在する。
9人組アイドルユニット「HeartFULL」のリーダー、後藤絵里はある日事務所の副社長に呼び出されそのオフィスにやってきた。
「副社長、お話って何でしょうか…」
副社長の後ろには銀縁眼鏡をかけた背の高い青年が立っていた。
「うむ。君のユニットの、新しいプロデューサーを紹介しようと思ってね」
「もしかして…」
「ああ、彼だ。風間倭くんだ」
(ど、どうして俺が…エリート金融マンになるはずだった俺が、なんでアイドルなんかプロデュースせにゃならなくなったんだ……!!)
副社長が絵里に紹介している間、倭はずっとこのような自問自答に明け暮れていた。
「お互い長い付き合いになるんだ、あとは2人で話し合ってみるといい」
「はい!」
倭とは対照的に瞳をキラキラさせる絵里。
(アイドルなぁ……確かに彼女も平均以上の顔と身体はもっているが…聞いたことないユニットだな、売れるために必死なのか…)
「君がリーダーなのか」
「はい!後藤絵里って言います。HeartFULLをもっとキラキラしたユニットにしたいのでよろしくお願いします、プロデューサーさん!」
「あ、あぁ…」
絵里の勢いに押される一方の倭。
「君たちは何人のグループなんだい?」
「全部で9人です。私が一番年上で21、一番下が13。中学生と高校生の子が多いですね」
倭は絵里の胸元に視線を移す。
可愛らしいキャラ物のTシャツ、そこそこのサイズはありそうな膨らみだ。
「初対面で失礼かもしれないが、何カップ?」
「Dです」
「メンバーの子はみんなスタイルいいのかい?」
「はい。私より大きい子もいますよ。中学生の子も、どうしてそこまでなったのかな、って思うような子がいるので…」
「ふむ」
素材は申し分ない。倭はそう思った。
「他のメンバーの子とも会えないかな…これからのことも含めて話がしたい」
「いいですよ。学校がある子もいるけど、夕方になったら今日もみんなでレッスンの予定なので」
「そうか、じゃあ早速」
ハキハキしていてやる気にも満ち溢れていていい子だ、と倭は絵里を見ながら思った。