Infinity〜若社長とグラドルたちの日常 1
都内某所。
とあるオフィスビルの一室で、一人の男性が悩んでいた。
「…一体、どうすればいいんだ…?」
瀬田賢太郎。
若干19歳の青年。
その顔立ちはまだ幼いところも見え隠れし、少年とも思わせる。
この彼、実は一企業の社長なのである―
インフィニティ・プロモーション。
れっきとした芸能プロダクション会社である。
数年前、いや、数ヶ月前までは、芸能界に名を轟かせた有力プロダクションのひとつだった。
在籍していたタレントの数は100人弱。
そのほとんどは10代から20代の女性タレント。
女優やグラビアなどで活躍しているアイドルである。
しかし、現在の所属タレントは僅かに11人。
何故このような事態に陥ったのか。
それには、深い理由がある―
インフィニティを一代で築き上げたのは瀬田賢三という男である。
そう、賢太郎の実の父親だ。
彼によってインフィニティは芸能界の中でも一、二を争う大手に成長した。
それが今のような状態になってしまったのは賢三の急逝によるもの。
賢三は妻―つまり賢太郎の実の母親―と離婚し、完全に袂を分かれさせてしまった。
おまけに、賢三の後を継げるのは息子である賢太郎しかいなかった。
このチャンスを逃すまいと他の事務所はいっせいにインフィニティ所属のタレントの引き抜きに出た。
社長の後継ぎがまだ若すぎて頼りない御曹司ということに不安を抱いたタレントたちはいっせいに他の事務所へと移籍した。
そのせいで、今の有様というわけだ。
「…まあでも、僕にあれだけの人数を管理するのは無理だからなぁ…」
この状況がいいのか悪いのか、賢太郎は判断できなかった。
ガチャリ
オフィスのドアが開いた。
「…誰だ…?」
「やっほー、坊ちゃん元気ー?」
能天気な声が響く。
有沢麻衣子。
この事務所に残った中では一番人気のあるグラビアアイドルだ。
「…麻衣子、今の状況で賢くんが元気に見える?」
後から入ってきた女性が嘆息しながら言う。
酒井優梨子。
残ったメンバー中の最年長。
とはいえ23歳、その落ち着き払った様子は歳相当かそれ以上に感じられる。
ちなみにT大卒という正真正銘のインテリ。
麻「あ、ごめん…」
賢「や、謝らなくていいですよ」
賢「…ところで、麻衣子さんも優梨子さんも、なんか用でしたか?」
優「ん、賢くんさ、ちょっと気分転換しない?」
賢「はあ…」
麻「いつもいつもそんな悩んでたって、始まらないんだって!!」
賢「ですかね…」
優「そういうものじゃない?」
麻「はい、行こ行こ」
半ば強制的に賢太郎を連れ出す麻衣子と優梨子。