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デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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デッドエンド 76

「12のノエミという女がいる。…できれば、殺さないでほしい」
私は彼の言葉にあきれてしまった。
「12にかすり傷でもつけられたら御の字だ。心配する方向が間違っている」
そのノエミが、あのバルディッシュの女であることは間違いない。
マクシムの台詞は、的外れもいいところだった。
こちらは、あの女との遭遇を何としてでも避けたいのだ。
「そうか。ならいいんだ、忘れてくれ」
「忘れるのはかまわないが、いったいどういうわけだ。女官を憎んでいるんだろう?それなのに命乞いをするのか」
マクシムは答えをためらった。明らかに。
だが結局こう答えた。
「ノエミは、幼なじみなんだ」

静かな口調だった。
浮かぶ表情は、私にはなじみのないものだった。あきらめ、期待、何かそのように、募ってあふれ出す感情だ。
うとい私でも、彼のその言葉が、表情が何を意味するものなのか、わかった。

「…そういうことか。他の仲間に私を引き合わせようとしないわけは」
「まあ、そういうことだ」

他の労働者ならば、首長とそのノエミをこそ、殺してほしいと言うだろう。
搾取される側が、体制を覆そうと望むならば。




崖底をぐるりと回って、山の北西に連れてこられた。
日が当たらず、山の影になってひどく暗い。

「この真上に、竜がいつもとまっている台地がある。父は連れてこられたとき、そこから峰の内輪に続く地下道をのぼったそうだ」
マクシムは、まっすぐ上を指差しながらそう言った。
「それが、さらわれた男のいる塔につながる通路だ」


「なるほど。この岩山を登れ、と」
眼前にそびえる断崖絶壁に、頬がひくりと引き攣った。


「羽指竜は人間の男を襲うように調教されている。巡回飛行に見つかっても、君なら見逃されるはず。たぶん」
「たぶん?」
「警邏女官が騎乗していることがあるので」
「……」
「……」
行き当たりばったりを絵に描いたような作戦である。
だが、上の女たちが降りてくるかどうかもわからない現状では、他に手も思いつかない。
貧乏くじを引いたような気がするが、見捨てる選択肢がない以上、どうしようもなかった。


「マクシム」
腹を決めて岩にかけようとした手を止め、私はふと気になったことを訊いた。
「なぜ、あんな時間に外に出ていたんだ?深夜の当番ではなかったんだろう」
マクシムは、一旦きょとんとした。
それから、はっきりと照れ笑いを浮かべた。
「星を見ていたんだ」
「星?」
「この時季は長く見られるから、つい沈むまで眺めていたら、君が降りてきた」
意味が分からず首をかしげた私に、彼はふと、遠くを見る目をした。
「ノエミと約束したんだよ。無明使星がのぼったらお互いのこと思い出す、ってさ」
「……」

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