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デッドエンド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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デッドエンド 74

「黒鉄の採掘と精製だ。ここは黒鉄鉱山なんだ」

黒鉄とは、鉱石から精製する段階で、鋼以上の強度を持たせることができる鉱物だ。
合金加工も焼き入れも不要という扱い易さのため、武具や、特に防具には最高の素材とされている。
ただ極めて希少で、産出鉱山は二つの大陸でも数えるほどしかない。

「黒鉄が?それでか」
女たちの装備は高価なものだった。黒鉄一色の甲冑に、特注品であろう槍や剣。
あの巨大な羽指竜を飼うにも、かなりの財源が必要だと想像できる。
黒鉄が出るならば、それも納得だ。規模の小さな鉱脈だとしても、数百人で独占するには十分すぎる。

そう言うと、マクシムは憤慨した。
「そんなに儲かるものなのか。俺たちには食事もろくに出さないケチのくせに」

パイプから供給される最低限の水と食餌液が、彼らの食糧の全てだとマクシムは言った。
確かに栄養価は理想的で、それだけ口にしていれば活動には困らない。
が、生まれてこの方あんな気色の悪いドロドロばかり食べていて、しかも過酷な労働を強いられているとなれば、倦み疲れた表情も頷けるというものだ。

「なぜ、崖を登って逃げない?」
「警邏竜が飛び回っているだろう。ある高さより高くまで登ると、突き落とされるようになっているんだ」
マクシムは答えた。
「だから君が降りてきて、驚いたんだよ」
感嘆の眼差しを向けられ、居心地の悪い思いをした。
だが、マクシムの次の台詞に、私は驚いて顔を上げた。
「親父の言ったとおりだった」
「親父?」
「…ああ」
マクシムは、静かに頷いた。
「親父は言ってたよ、あの竜は女は襲わないんじゃないかと」
「父親というのは、さらわれてきた外の男だろう。塔に閉じ込められて、何年も保たずに死んでしまうんじゃなかったか。話す機会が?」
そう訊ねると、彼は少しためらってから、こう言った。
「それは、女官の相手をする男の話だ」
意味がわからず、首をかしげる。
「首長の夫に選ばれた男は、首長に女の子を産ませれば、それで役割は終わりだ。女官に手をつけることは許されず、…崖底に、降ろされる」

私は、またしても顔をしかめてしまった。
「それが、あなたの父親だと?」
「そう。何年も前に死んだがね」
彼は、さして悲しそうにでもなく、肩をすくめてそう言った。
「外では、もともと労働者じゃなかったらしい。体もあまり強くなかった」
「ちょっと待て。つまり、あなたは」
「つまり、今の首長は俺の妹だ」
マクシムは、自嘲するように口の端をゆがめると、目を上げた。
「だからと言って、ここでは何の意味もない。…剣を、引いてくれないか」

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