幼魔鬼譚〜悪戯好きのアリス〜 44
駅前のベンチでくつろぐ二人と一匹に、道行く人の視線が集まっている。
巫女さんと大きな狼、それに骨面を付けた黒い全身タイツ(のように見えるだけで、実際は裸)の男―――
これで目立たないわけがない………
「大丈夫よ、ほら」
赤千穂が狂骨を指差す。
いつの間にか狂骨は、『新装開店パチンコラッピー』と書かれたのぼりを持っていた。
「これで私達は宣伝のチンドン屋さんにしか見えないわ」
「いつの間に………」
「ここにくる途中、パチンコ屋さんから借りてきたの」
満面の笑顔で得意げに答える。
「赤千穂………」
それまで黙っていた狂骨が口を開く。
「これそっちで返してきなよ。俺、店の人に怒られるの嫌だから」
(借りたんじゃなくて、盗ってきたのか………)
―――数分後―――
白いミニバンが赤千穂達の前で停まった。
ちょうどその時、赤千穂達は駅前の交番のお巡りさんに職務質問を受けていた。
これだけ怪しければ当然である………
「じゃぁ、この大きな犬は、ハリウッド製の着ぐるみだと」
「いいえ、犬じゃなくて狼ですわ」
「どっちでもいいから、ちょっとそれ脱いで、顔見せてもらえるかな」
「そんな無茶な……」
そんなやり取りをしている中に、ミニバンから降りてきた男……阿蘇鬼神が警官の肩を後ろから叩いた。
「んっ?」
「やっ、お勤めご苦労さん」
そう言って阿蘇は背広の内ポケットから、何かを取り出し、警官に見せた。
「ちょっと彼らに用があってね。連れてっていいかな?」
「この三人をですか? 別にかまいませんが……」
警官が小声で阿蘇に尋ねる。
「彼らは何者なんですか? 阿蘇‘警部’殿」
阿蘇が警官に見せたのは自分の警察手帳(本物)だった。
「まぁ…事件の重要な証人……かな」
「かな?」
「ともかく、彼らのことは俺に任せて」
そう言って阿蘇は、そそくさと二人と一匹を車に押し込むように乗せていく。
そして、阿蘇も車に乗り込んだ。
「おーい、お巡りさん」
窓から狂骨が顔を出し、警官を呼ぶ。
「これ頼む」
「えっ?」
窓からパチンコ屋ののぼりを警官に押し付ける狂骨。
「それじゃ、今日のことは皆には内緒。捜査上の秘密ということで」
「はぁ……」
あまり納得していない様子の警官とのぼりを残し、阿蘇たちの乗った車は南区へと走りだしたのであった。