見習い魔術師セオドア 3
「危険すぎる、やめておけ」という自分と、「好機だ。希少な炎竜石を手に入れて研究する絶好の機会だ」という自分。
両者が心の中で、せめぎあいを始めていた。
どうしても採集しいであろうアドリアナが、瞳を輝かせて彼を見ている。
断れば、別の者に頼むのだろう。
そして、セオドアにも簡単には断れない事情もあった。
貧しい家の出ながら、才能を見出されて特待生としてこのフィサリス魔術学院に入学したセオドアは、成果を出せなければ特待生資格を取り消されかねない。
だからこそ必死で勉強したし、アドリアナの元でめきめきとその才能を伸ばしてもらった。
セオドアは自らを導いてくれた美しい女性魔術師に、いつしか好意を抱くようになっていた。
敬愛し、そして思慕する恩師がそんな危険に飛び込むなら止めるか、さもなくば同行したい。
知識や学問への欲求に、ほかの男に彼女を渡したくない気持ちも手伝って、彼は答えた。
「わかりました。先生を死なせないためにも同行します」
「まあ!ありがとう!!あなたなら来てくれると思っていたわ」
花の咲くような笑顔で、アドリアナは彼の手を取って喜んでいた。
ドキっとするほど、素敵な笑顔だ。
そうして、彼はアドリアナと共にフィレス山の前にいる。
「万全の準備はしてきたつもりだけど……覚悟はいいわね?」
「はい、先生」
炎竜石を採取して、アドリアナと共に絶対生きて帰る。その決意で、考えられる限りの準備をしてきた。
二人とも火鼠の毛皮でできた火除けの衣で全身を覆い、しかもこの火除けの衣、耐火・耐熱の魔法石を多く取り付けて、耐火魔法と耐熱魔法の効果もある。
おかげでアドリアナの見事なボディラインは分かりづらくなっているが、それでも豊満な胸が衣を押し上げている。
耐火・耐熱処置をしてあるのはは道具袋も同じで、食料が燃えたり飲み水が蒸発することもないようにしている。容積圧縮魔法で小さくしてあるから携帯も楽だ。
魔力を貯めるための宝石も持ってきて、万一の魔力切れにも備えた。