大淫者の宿命星 12
彼女の部屋を想像してみた。
カーテンが閉めきられていて、昼間でも薄暗い広めのリビングルーム。
アンティークのテーブルと椅子、壁には曼陀羅図のような宗教画、テーブルの上に置かれたタロット・カード。天井にはシャンデリア。アロマキャンドルか香炉からの薫りが部屋に満ちている。
そこに、ジーンズに安物のTシャツに寝癖のついた髪型の俺が、携帯電話で動画を見たりゲームをしたりしている。
ベランダには彼女の下着と俺の下着が並んで干されている。
そんな想像をして、目を閉じているうちに彼女の部屋があるマンションに到着した。
高そうだけど、駅から適度に離れていて見た目は普通のマンションに見える。
地下に立体駐車場があって、そこには見慣れたワゴンや軽自動車が停車している。
「普通の車がたくさんあるね」
「子持ちの主婦の人とか、買い物に行くとかには、軽自動車のほうが便利なんじゃない?」
やたら金持ちが住んでる高級マンションを想像していたが、どうもちがうようだ。
「どうぞ」
彼女の部屋。
2LDKで広くも狭くもないリビングルームと奥に寝室。寝室側に彼女の服のクローゼット。
特別豪華な感じはしない部屋。
キッチン。そばに冷蔵庫。
どちらもあまり使われている感じがない。
お茶を飲むぐらいのようだ。
想像していたようなオカルトグッズはない。
テーブル、その上にノートパソコン。
テレビ。その正面の壁ぎわにソファー。
俺がうろうろして、こっちが浴室。こっちがトイレと確認しているのを、彼女はソファーに腰を下ろして笑顔で見ている。
「ベットは昨日、デパートから届いたの」
タブルベット。
これなら二人で寝ても広いぐらいだ。
彼女は喫煙をしない。壁が汚れていない。
「灰皿はある?」
「うん、買ってきてあるよ。ちょっと待って」
彼女が新品の硝子の灰皿を出してきてくれた。
「換気扇のそばに置いて」
「テーブルじゃなくていいの?」
彼女がそう言いながらキッチンの方に置く。
「なんか、この部屋、いい匂いするね」
「浴室のほうに化粧品とかあるからじゃない」
姉の部屋は雑誌や服がもっと散らかっていた。
さらに、マニキュア落としの鼻につく臭いもしていた。
なんか、ずいぶんちがう気がした。
「あまり片づけたりしてなくて、ごめんなさい。初めだけすごくきれいにしても、すぐにボロが出ちゃうでしょう?」
「姉の部屋とくらべたらすごく整理されていて、きれいだ。女の人でもこんなにちがうのか……」
「ほめてくれてありがとう」
ほめているのではなく、正直な感想なんだが。
ちょっとした違和感。
この部屋に趣味らしい物がない。
「趣味は仕事だからね。部屋には寝たり、着替えた利するのに帰ってくるだけな感じなの」
「で、なんとなく一人だからテレビをつけてるけど、見てないみたいな感じかな?」
「そうそう」
俺が一人暮らしをしてた時もそんな感じだったな。
「あとは瞑想してたりすると、時間はすぐ過ぎちゃうから……でも、あなたがいれば修行いらないけどね」
瞑想、修行、なんだそれは。
「ねぇ、私に会えない間、さみしかった?」
あんなことやこんなことを思い出して欲情してた、と言ったら、ドン引きするだろうな。
「うん、あと彼女できたんだな、とか、あとちょっとで実家暮らしが終わるな、とか考えてた」
「すぐに彼女じゃなくて、奥さんになるけどね」
彼女はそう言ってから、キスしてきた。唇の柔らかい感触。俺は舌を入れると彼女の舌が絡みつく。
「あなたに会えない間、私はさみしかったよ」
彼女の生理は5日から7日間続く。この日は生理中だと俺は気がついてなかった。
キスと彼女がそばで甘えてくれているので、てっきりOKなんだと思い込んだ。
俺が彼女の乳房をブラウス越しに触れようとすると、彼女に「スケベだなぁ」と言われた。
「あのね、私、今、あの日だからセックスしたら血だらけになっちゃうよ。したいの?」
「生理なのか、体調悪かったりする?」
俺は彼女に今後の参考に聞かせてほしいと、生理って何日ぐらい続くのか、とか、すごくたくさん出血するのか、とか、質問した。
「今までの彼女とそういう話をしなかったの?」
「あまり。なんかね」
「じゃあ、私の質問に恥ずかしくても、答えてくれるならいろいろ教えてあげる」
恥ずかしくても、というところが気になったけど、質問って何が聞きたいのかな、と言った。
「男の人はオナニーするでしょう。どのくらいでするのかな、毎日?」
「個人差はあるとは思うけど」
「他の人は興味ないよ。私は、あなたの話が聞きたいの」
「毎日はしないかな……」
「三日に一度とか?」
「定期的にするもんじゃないからなぁ」
「どんなときにしたくなるの?」
「うーん、興奮したときとか、かな」