比翼の鳥は運命の空へ 2
「ん……朝?」
薄く目を開け、緩慢な動作で上半身を起こす。そして腕を上げて伸びをした。妙に身体が重い。
(疲れが取れてないのか?)
まるで遅くまで内職をした後のようだ。しかしそんな心当たりは無い。
(疲れることあったっけ?)
訝みながら腕を下ろす。ムニっとやわらかい感触が手に触れた。
(って、ちょっと待て……)
ふと疑問が湧き上がる、なぜ自分は寝室に寝ていたのかと。
現在アレスの寝室は怪我人が使っていて、彼女がいる間アレスは隣室で寝ることになっていた筈だ。
なのに何故か今朝はいつもの寝室で目が覚めた。
(昨日の夜はたしか……)
漸く昨夜の出来事を思い出し、アレスは恐る恐る左隣を見た。
同じベッドの中、壁際に銀髪の少女が静かに寝息を立てていた。手が触れたのは、彼女の豊かな胸だ。
同時にアレスは自分が何も身に着けていないことに気づく。シーツに隠れて見えないが、少女も同じだろう。
(これは悪い夢だ)
思わず現実逃避するが、現実は厳しい。
昨夜の出来事は事実として思い出せるし、左手に触れる胸の柔らかさも現実のものだ。
「ん……」
目を覚ましたのか、少女が微かに呻く。
アレスは慌てて左手を胸から離し、少しだけ少女から距離を取った。
目覚めた少女は上半身を起こし、瞼を擦る。そして隣のアレスに気づいた。
「……」
「……」
両者無言。
少女はアレスを見て、次に自分が裸であることに気づき、二人で同じベッドの中にいることにも気づいた。
「き、きゃあああぁぁぁぁっ!!」
少女は家中どころか、表にまで聞こえそうなほど大きな叫び声を上げた。
「ちょっと! なんでこんなことになってるのよ!?」
「俺が訊きてえよ! ってか覚えてねえのかよ!?」
「覚えてないってなにをよ!?」
「昨日の夜のことだ!」
「昨日の夜のことって……」
そこで漸く思い出したのだろう、少女の顔が赤くなり、その後徐々に青褪めていった。
「うそ……ちょっと冗談でしょ?」
「だったらいいんだけどな」
アレスだって、自分が怪我人に手を出したとは思いたくない。
「なんでこんな事になったんだか……」
深いため息を吐き、アレスはこの数日間の出来事に思いを馳せた。
銀髪の少女、モニカと出会ってからの数日間を。
アレスはその日も朝日と共に目を覚ました。
いつもどおり顔を洗い、いつもどおり隣に朝食をたかりに行き、いつもどおり仕事に出た。
大街道から外れた小さな村・イオタ。アレスはそこの村外れで猟師として生活している。山に入って兎や鴨、大きいものになれば猪や熊などを仕留めて、その肉を売ることで生計を立てていた。
その日もアレスは腰に剣を下げ、背中には弓矢を背負って山に入った。
草木を掻き分けながら道無き道を進むと、やがて木立ちの向こうに一羽の兎を見つけた。