香港国際学園 91
・・・空間を移動し終えた瞬間、やなくは崩れ落ちるように現れた。
口からは鮮血が漏れてくる。
「ぐっ・・・きついね・・・ちょっとした距離でも身体が堪える・・・」
よろよろと立ち上がり歩くやなく・・・さっき文治に見せたような余裕はその顔には無かった。
そして刀機の方は、意識を取り戻したものの、ぐったりとしていた。
その様子を心配そうにみていたカナンは、刀機の胸元に黒い痣のような物を見つけ、制服の前をはだけてみた。
「何?・・・これ?・・・」
刀機の身体に黒い蛇のような痣が、身体に巻きつくように現れ、頭の部分が心臓の位置に噛み付きそうな形になっている。
「それは・・・『蛇呪』さ・・・燵摩のヤロウ・・・嬲り殺しにする気だったみたいだなぁ・・・」
そこに現れたやなくが自分の胸元を差す・・・そこには刀機と同じ痣が刻まれていたのだ。
やなくは刀機の隣まで来るとドカッと倒れこむ。
「力もかなり食われたみたいだし・・・後持って2、3時間かねぇ・・・」
「俺達の手で・・・奴を地獄に叩き落としたかったのだがな」
疲れきった表情で言うやなくに、血を吐き出しながら刀機も答える。
「燵摩のヤロウが死ねば『蛇呪』は解けるが・・・失った能力は戻ってこない・・・厄介なことだわ」
「アイツ等に期待するしかないのか・・・」
刀機はそう言いながら低く嘲う。2人して燵摩の術中に嵌ってしまい、もう嘲うしかない事態だった。
「刀ちゃん・・・」
「なんだ?・・・」
いきなり話題を変えようとしたやなくに刀機が怪訝な表情をする。
「鈴木誠一を見てどう思う?」
「普段のヤツを見ていたが・・・なぜ主姫が欲しがるのか理解できなかった・・・でもさっきのヤツは・・・怖かった、震えが止まらんぐらいに・・・ヤツは一体何者なんだ・・・」
刀機は人間を恐れる事はめったと無いが、あの時の誠一は身震いするほど怖かった。
化け物・・・と言うより化け物すら超越してしまった存在、主姫と同じモノを感じたのだ。
「彼は・・・中にとんでも無いモノを飼ってるね・・・まぁ、今回は僕達は大人しく寝てるとしますか・・・」
一方誠一達は・・・
校舎の手前で立ち塞がった簾地霧江と対峙していた。
「恭介の言葉よ・・・体育館で待つって・・・ただし私を倒せたらね!」
そう霧江が言うと周囲から十数人の霧江が現れたのだ。
「コイツッ!・・・分身かよっ!!」
「ふふふっ・・・違うわ、すべて本物よ・・・」
驚く理人に余裕の笑みを浮かべた霧江が笑う。
「まぁ、それで全て偽者でもあるんだな・・・」
誠一は持っていた火縄銃を無造作に横に向けて射つ。
そして、何かに当たる音・・・横の茂みから脇腹を打ち抜かれた霧江が現れたのだ。
「どっ・・・どうして分かったの・・・」
「僕は自分の見た物は信用しない・・・人間は自分の都合のいいものを見るしね・・・」
誠一は事も無げに言ってのける。
「やなくと刀機が遅れを取ったのには何か理由がある・・・多分2人は移し身や分身と言う事に気を取られ過ぎたんじゃないかと思ったんだ・・・それを考えると見えているのは全て偽者かもしれないとね」
「で、見えてる物を気にしなければ気配を探るのは造作も無い事なのよ・・・こう言う妖しを使う能力者は近くにいる事が多いからね」
誠一の言葉に夜栄が付け加える。どうやら誠一、夜栄、晶の3人は、霧江の能力に気が付いていたようなのだ。
「くっ!・・・バレたと言ってもまだ戦えるわ!・・・」
そう言った霧江の身体が只の生徒になる。
「移し身だね・・・晶、1人で十分だろ?」
「は〜い、晶ちゃん頑張っちゃいますぅ〜・・・」
陰陽師姿の晶は刀を抜くと10人の霧江に斬りかかっていく。
その動きは凄まじく、10人の斬撃をものともせず剣で払い除け、そのうちの1人を刺したのだ。
「うはっ!・・・」
霧江の能力が解除され、他の霧江が只の生徒となって倒れこむ。
「ざまぁねぇな、霧江。」
晶に刺され、地に伏している霧江に燵摩が呟く。
「まぁ、俺がこいつら全員殺すから、問題ねぇけどな。」
そう言うと燵摩の周りにオロチの氣が充満していく。
誠一が燵摩の前にでようとするのを、理人が止めた。
「理人君?」
「悪いが、あいつの相手は俺がする。お前らは恭介の所に行け!」
そう言って理人も龍の氣を充満させていく。
「しかし・・・」
「俺じゃあ、恭介の相手は出来ないし、オロチの氣に対抗できるのは龍の氣を持つ俺か、お前と主姫しかいねぇ。」