香港国際学園 61
誠一と夜栄は顔を見合わせる。
鈴木家は『修験道』雨宮家は『神道』・・・それぞれ千数百年続く能力者の家なのだ。
だから能力者である事も、男と女入れ替わる身体も一族の誇りとして違和感なく受け継がれてきた。
貴族が生まれながら貴族であるのと同じく、彼等も生まれながらに能力者であることを宿命づけられ、それを違和感無く受け継いできたから、今やなくが見せている憂いの表情は驚きであった。
「色々あるもんだな・・・」
夜栄の呟きはその気持ちを如実に表していた。
「夜栄ちゃん・・・」
「晶に声掛けるか?・・・」
鳳晶(オオトリ ヒカリ)は『陰陽師』一族の鳳家出身、鈴木家や雨宮家の親戚筋で2人の従姉妹でもあった。
本来は雨宮家が『電撃』鈴木家が『身体強化』鳳家が『鎌鼬』・・・古来より『鬼』(朝廷に敵対する能力者?)を狩ってきた一族で、それ故血の繋がりが強い。
それだけでなく、男と女入れ替わる体質のせいで他家と婚姻する訳にもいかず、3家の結びつきは強くなり、それが長年の血の繋がりで若干能力が混ざっていた。
誠一の電撃の能力は雨宮家の能力だし、夜栄の男の時は身体強化が使える。
2人より一つ下の晶は、能力は若干落ちるけど3家の能力をまんべんなく使えた。
「そーだな・・・暴走だけなんとか抑えれれば役に立つしね・・・で御堂さんはどうするんだい?」
誠一は夜栄の提案を了承しながら、勇牙の妹の凛を見た。
「ウチは茜ちゃんを助けたいだけ・・・ユン師から加わるなて言われてるし・・・」
凛はそう言ってチャン・ユンを見る。だが、そこで凛の話に反応したのは奈々子だった。
「えっ!凛ちゃん大阪人?・・・でっ、何処の出身?」
「ウチの両親が杭全(くまたと読む)の生まれですわ・・・吉良さんも?」
「奈々子でええで。でも、うわーっ!、めっちゃ近所やん!・・・ウチ河堀口(こぼれぐちと読む)やねん」
一瞬にして大阪話で盛り上がる奈々子と凛・・・それを見ながら誠一と夜栄が顔を見合した。
「判らんし、読めんし、書けん・・・」
「地元しか参加できないからね・・・」
会話が弾んでいる二人を後目に誠一と夜栄が教官室から出ると
「やぁぁぁ!!」
「るぁぁぁ!!」
体育館のなかで巴と文冶が合わせ稽古をしていた。
最も、稽古と思っているのは本人達だけで傍目からみると殺し合いをしているようにしか見えない。
「九十九流体術奥義『螺旋掌』!!」
「咲守流薙鉈術奥義『烈風旋』!!」
二人の技が体育館の中心で激突した。
「ん?どうした二人とも」
巴がぽかんとしている二人に気付いた。
「い、いや、凄いなぁと思って」
夜栄も頷く
「お世話は結構、まだまだこれからだ」
そう言うと薙鉈を構えた。
「おう、テメェ等もやるか?」
文冶が声を掛けた。
「いや、鍛錬は一族と以外しないのが慣わしだから・・・」
誠一は彼らと手合わせして本気の力を見てみたい誘惑があったが、手を振って思いとどまった。
そして、追いついてきた奈々子と絵里子と共に寮へと向かったのだ。
「夜栄ちゃん・・・晶に話してくれる?」
「マコはつくずく晶が苦手なんだな・・・将来義妹になるんだぞ・・・」
少しからかうような口調で夜栄が言う。晶は誠一の弟誠二の許婚であるが、2人はその事に対して反対している訳ではないし、仲も良い。
ただ、誠一は底抜けに明るくやかましい晶が苦手だった。
「まあいい・・・頼まれてやる」
「すまんが、頼まれてくれ」
この2人も許婚なのだが、お互い屈折した感情を持っている。
だが幼少から気心の知れた仲なので、言葉少なくてもお互いの気持ちは分かる。
「あと心配なのは北川君だな・・・面倒な事に巻き込まれなければいいけど・・・」