がくにん 45
双樹に言われて準備を済ませる影介。その後双樹の作った朝食を食べ終わると、少し早いが学校へ向かう事にした。理由はもちろん二人で寮から出る瞬間を見られるのを防ぐためである。
影介が最後の準備を済ませる傍らで双樹は弁当箱を二つ鞄に詰める。
……そう。二つである。
もうお気付きだろう。これこそが影介に振り向くかも知れない女子生徒達の動きを一発で収める双樹の秘策である。
しかし、影介の気を引くために同じ事を考えている女子生徒が一名いた……。
この日の昼休みに葵坂学園創立以来最大級の闘いが勃発するが、それはまた後の話……。
準備を終わらせた二人は部屋を出て施錠し、寮を出た。
影介は少し緊張している。素顔を晒して登校するのは始めてだし、双樹を隣に寄り添わせながらの登校である。そう考えれば緊張して当然である。
双樹も影介の緊張を感じ取り、優しく声をかける。
「大丈夫。きっと大丈夫ですよ……」
『大丈夫』、根拠なんて無い筈だが双樹が言えば本当にそうだと思えてしまうから不思議だ。
思えば昨日から双樹のこの言葉に救われ続けている。それを思い出した影介は双樹の言葉を信じた。
爽やかな晴天が広がるその中で、影介は今日という日が良いものとなる事を願った……。
・・・First misshon is over.
Go to intermisshon!!
代わりばえのしない、ただの登校風景。5月に入り新入生も落ち着き始めて、明日から土日と休みのため、放課後からの計画を友人と立てる…そんな光景が葵坂学園へと続く坂道に広がっていた。
しかし、次第に辺りがざわつき始める。
学園生徒の視線は男女を問わず、一組の生徒へ向けられていた。内一人は逢坂双樹、学園でも知らない者がいない二年の美少女である。だがその脇にいる男子生徒は…
((…誰だ?))
学園が誇る美少女が何者か分からない男と二人で登校。これがざわつきの原因である。
(だ、誰だっ?あの男は!)
(くっ…おのれ、我々の大事な目と心の栄養源、双樹ちゃんを奪うとは…)
(親衛隊の許可無く双樹様の隣に立つとは……万死に値するっ!)
(あっ…前から見ると結構、イケメンじゃん。私、ああいうのがタイプなのよね〜)
などなど……
覚悟していたとはいえ、嫉妬やら羨望やらの眼差しに影介は尋常ではない冷や汗を背中にかいていた。
チラッと双樹を見ると丁度、目が合い、二人して頬を染める。
その行為により、辺りからの視線に幾分かの殺意がブレンドされた。