がくにん 44
家事の出来るお嬢様なんて珍しい……とか思いつつも、自身がそこまで料理が得意ではないので料理上手な女性は影介の理想でもあった。
慣れた手付きで食器を洗う双樹を見て、つくづく自分は最高の女性がパートナーになってくれたと影介は感じる。
その後、影介が煎れた日本茶を飲みながら取り留めのない会話を続け、気付けば時計は11時を指していた。
「少し早いけど、もう寝ようか?」
影介の提案に双樹も「そうですね」と応じると互いに着替えて就寝の準備を済ませる。
着替えが終わると影介は予備の布団を取り出そうとするが、ベットに腰掛けたまま何か言いたそうにこちらを見る双樹を見て影介は布団を出す手を止める。
しばし躊躇した後に
「……一緒に寝る?」
と聞くと、気持ちが伝わって嬉しかったのか
「はいっ!」
と満面の笑みで双樹は答える。
布団を出すのをやめると影介は既に双樹が入り込んでいるベットに「失礼します……」と言ってから潜る。
自分のベットなのだから何も言わず潜れば良いのだが、双樹がいたのでついついそう口にしてしまった。
少し狭くはあるが、双樹はぴったりと影介に密着してから目を閉じる。
影介も片手で双樹を包み込みながら目を閉じる。
無防備な双樹がすぐ近くにいるのだが、不思議と欲情はしなかった。
肌で感じる双樹の体温はむしろ柔らかな安らぎを影介に与える。
それは双樹とて同じであり、影介に包み込まれている安心感からかあっさりと眠りへと落ちて行った。
安らかな寝顔を見て、影介は改めて双樹を守る決心を強くする。
思い返せば今日は凄い一日だった。
保健室でキスをした後に双樹が掠われ、それを助けた後に自分の部屋へ招いて落ち着かせていたらあれよあれよとベッド・イン。初体験の後は一緒に入浴して手料理までいただき、止めとばかりに同じ布団で就寝。
でも今日一日で双樹との絆は確固たる物となったし、自身の葛藤も乗り越えた。
今日という日に感謝しながら影介も目を閉じて眠りの世界へと落ちて行った……。
「ん……」
どうやら朝を迎えたらしい。普段の習慣から早く起きてしまったが影介はトレーニングに行く気はしなかった。
それはもちろん、自分の腕の中で今も穏やかな寝息を奏でている双樹のためであった。
トレーニングの中止を決めた影介は、いつぶりかの二度寝へと落ちた……。
次に影介が目を覚ますと、そこには手際良く朝食の準備を進める双樹がいた。
「おはようございます。もう少しで朝食ができますから、着替えて学校の準備を済ませておいてくださいね」