陣陽学園〜Fight School〜 24
更に良く見れば着弾時に炸裂させる目的らしい切れ目。
マスケットの黒色火薬、激発用の火打ち石や雷管を湿気らせようと言うのだろう。
密集隊形の中で炸裂すれば古式銃の稼働率は下がり、弓矢の類にも支障が出る。
確かに月星明日香と高見沢賢治が長得物で銃弾を防ぐには限界がある、達人ではあっても超人ではないのだ。
先の作戦もより確実となるだろうアイデアを出した蜂丸市花は、何の遠慮もなく若本武留亜をパシろうとしていた。
「というわけで若本さん、手空きの人達集めて組み立てといて。」
「…下さい、は?」
「作っといてぇ、下さぁい。」
「良いぃだろう?」
フフン、と口元を歪める武留亜、紺色落ちした市花への嫌味以外の何物でもないが、彼がやるとサマになる。
「あと、報酬は風呂でマットプレイな」
「・・・まぁいいか・・・延長は追加料金よ」
市花の胸を揉みながら耳を甘噛みする武留亜と、嫌がりもせず声が甘くなる市花・・・
山吹組的ないつものスキンシップ、会話の内容は出流には理解できていない。
「二人は恋人同士なの?・・・」
「セフレだね」
お色気ポーズを取りながら答える明日香に出流は不機嫌な顔をする。
そういう関係が彼にはふしだらにしか思えない。
と、言いつつ複数の女子となし崩しに関係を持ってしまった自分への嫌悪もある。
でも、自由奔放な彼らに強く惹かれるのも事実だった。
若本武留亜は黒服から器用な面子を集めて工作教室を開く、モテる男は中々に多芸だ。
「これRPG2と、似てるね。」
中でも黒服の国籍不明娘、鮪漁船ツナ子(まぐろぎょせんつなこ)が矢鱈器用で驚いた。
幼い頃から両親と紛争国を偽名で転々、マグロ漁船で密入国して日本を安住の地に定め今の冗談みたいな名前を名乗っているそうだ。
しかしあの液体は何なのか、強酸や猛毒は流石にないだろうが、普通の水じゃない事は確かだ。
レモン味っぽくも見えるが、微妙な泡の加減からしてビールか炭酸飲料に見えなくもない。
蜂丸市花は笑うだけで詳しくは何も答えなかった、笑って済む程度の物として出流は納得した。
とにかくこうして時間の許す限り、食後一番に合戦を控えた紺色はウォーミングアップなり個人武具の点検に回せという配慮だ。
蜂丸市花は兜割りの手入れを終え、備品や材料の中から他にも初等科認定で使えそうな物を探していた。
出流もまた午前中の経験から手頃な投擲物として、寸鉄を二〜三本余計に仕入れておこうと閃いた。
寸鉄の何種類かある中、出流の仕様はナックルに近い代物だが投げる使い方もある。
拘りを捨て新たな型を研究してこそ実戦武術、失敗したら基本に戻ればいい、生きている限り。
先程の武術談義が活きて来たがPCの使い方が解らず唸っていた所、武留亜が助け船ならぬ鮪漁船ツナ子を寄越した。
ツナ子がフニッと出流の背中にのし掛かり『何探す?』と聞いて来た。
彼女は難民時代も常に拾い物の文献から色々勉強していたそうで何かと学が広く、それこそ『柔軟体操でもして待ってればいいよ』とツナ子は手際よく出流の注文と申請を済ませた。
「細かいセッティングは美智江ちゃんに頼んでね」
ツナ子の言う美智江とは市花のとは別口でルーペを使い精密作業をする女子・・・
加治木美智江(かじき みちえ)・・・
ちょっと古風な名前の暗器術の使い手と言う物騒な経歴だが、それ以上に武具の整備が上手い。
タンクトップの似合うワイルドな美少女ブラックスミス。
それ以外にも組のみんなの生活必需品、えっちぃな道具の整備までしてくれる便利屋さんだったりする。
「因みに報酬は男女ともカラダのみね」
(やっぱり・・・)
流石山吹組と言うか、出流でも展開が読めるビッチちゃん。
そっちのほうは性豪レベル。
出流を完膚無きまでに叩きのめした大人しそうな女子、吹雪幸乃(ふぶき ゆきの)と同等の実力・・・
ミシェルやまどかのような簡単な相手ではないらしい。
いや、むしろミシェルやまどかの方が少数派。
幸乃、美智江レベルが山吹組の平均とも言え、純華を始めもっと上は一杯いる訳である。