香港国際学園 138
「・・・俺、駄目かも・・・理人、すまん、先に逝くわ・・・」
顔を真っ赤にして崩れ落ちかける剣護。一生懸命鼻を押さえている。
「剣護?・・・似合ってないの?」
(似合いすぎてるんだよ・・・こいつら全員・・・)
さっき入ってきた瞳と美咲までチャイナドレスに身を包み、限界近くまでメロメロにされた剣護。
理人に助けを求める視線を送るが・・・理人も美咲と菜月に迫られて泣きそうになっていた。
「純情な男の子って、ええなあ〜」
つたやがそんな2人を見ながら言った。
とそこへ「失礼します」と顔色の悪い生徒とおぼしき眼鏡の少年が入ってきた。何人かが「チッ」と舌打ちをしたが全く意に介さない様で、
「実はあなた方に折り入ってお話があるのですが・・・」
と言った。すっかりこの状況に参っていた誠一は助かったとばかりに、
「お話とは一体何でしょうか?」
と心からの笑顔(才英が見たら理性を失いかねないレベルの)で返すと、少年は少し躊躇した様な仕草を見せたがやがて覚悟を決めたのか、
「アドルフについてです。」
と切り出した。
「!?」
一同が驚愕の色を見せるが少年は構わず続けた。
「彼は刀機君やカナンさんと同じく沢井教授によって造られた能力者なんです。」
やっと立ち直った理人が、
「何でお前がそんな事を知ってるんだ?おっさんですら調べられなかったのに。」
と口を挟むと、少年は眼鏡を右手中指で押し上げ、
「やはり言わずに済ますことは出来ませんね・・・僕の名前は沢井光一。奴、いや沢井奏掩は僕の父です。もっとも今は母方の旧姓の霧島を名乗ってますがね。」
と苦笑混じりに言った。
暫く続く静寂。それを破ったのはいつのまにか復活した才英だった。
「で、続きは?まさかそれで終わりじゃないだろ?」
すると光一は再び気を取り直した様に、
「ええ、もちろんです。今日はあなた方に奴の野望を伝えに来ました。もちろんそれを阻止して貰う為に。」
「ふ〜ん、野望って?」
やなくがいつもの調子で尋ねると、
「そもそも奴が彼ら、つまりアドルフ達を造ったのは<神>を得る為です。」
と光一が言うと、
「神だって!?」
珍しくやなくが大声を上げた。
「そう、神。森羅万象を意のままに操れる者です。」
「そんな事が可能なのかい?」
つたやが尋ねると、
「普通なら難しいでしょうね。ですが、生まれながらにその力を持つ能力者が居るとすれば?」
「ファントム、か。」
と誠一が呟く。
「そうです。ファントムなら<神>の遺伝子情報さえ分かれば・・・。」
「しかし、そんな能力者が居るのか?」
理人が尋ねる。
「ええ、居ますよ。」
「それは、どこの誰なんだ?」
剣護が聞く。すると、光一は再び苦笑を浮かべると、
「それは、僕です。」と答えた。