君の人生、変えてあげる。 2
―そんなこんなで、あっという間に初日が終わる。
(まあ半日だし当然といえば当然だね)
はぁ…
僕は荷物をカバンにしまってさっさと家に帰ろうとする…が
「たっくん♪」
…たっくん?
「…それって僕のことなんですか」
「名前が拓真、だからたっくんだよ」
「可愛いじゃない♪」
そう次々に言われましても。
…というか、僕以外のクラスの女子全員が集まっていた。
その中で先頭に立った女の子…黒髪ロングでかなりの美人…が僕の目の前にまで迫る。
「改めまして、1年1組へようこそ!私は委員長の原田飛鳥。よろしくね♪」
「あ、はい、よろしく、原田さん…」
「あ、それ禁止ね」
「はい?」
「クラスの仲間は名前で呼ぶか、あだ名で呼んでね。君なら拓真くんか、さっき律っちゃんが呼んでた『たっくん』とか」
「じゃ、じゃあ・・・・・飛鳥・・ちゃん。」
「「「うわぁー・・」」」
「飛鳥さんをちゃん付けって、実はたっくん、大胆なの?」
なんか、すごいことを言っちゃったみたい。
クラス中が黄色い声で騒然としてしまっている。
「あ、飛鳥ちゃん・・・・私にちゃん付けって・・・」
当の飛鳥ちゃんはなんだかほほを赤らめて嬉しそうにしているし。
「じゃ、私は?私、大和 香里(やまと かおり)っていうの。」
大きな眼鏡が印象的な可愛い娘が乗り出して聞いてきた。
「え、えっ!?じゃ、じゃあ、香里ちゃん?」
「やったぁ〜!嬉しい〜」
彼女もまた頬を赤らめて大喜びしている。
…どういうことよ?
「たっくんにはこの調子でみんなの名前と顔を覚えてもらわないとねっ」
僕を最初に『たっくん』と呼んだ『律っちゃん』がそう言う。
「あ、私は小笠原律(おがさわら・りつ)。よろしくっ」
「よろしく、律っちゃん」
「えへへへ」
…某軽音部の部長みたいな呼び方だけど、周りからもそう呼ばれてるみたいだからいいか。
「んー…ところでさ」
「?」
飛鳥ちゃんの隣にいる女の子…明るい茶髪でツインテール…が神妙な表情で話しかける。
「あ、ごめん…私は香椎茉莉菜(かしい・まりな)っていうんだけど」
「うん、よろしく」
「ちなみに茉莉菜ちゃんのお母さんはこの学校の学園長なんだよ」
…そうだったのか。
母さんが、親友である学園長に、僕と同い年の娘がいるって話してたけど、彼女なんだ。
「拓真くんは、どうしてここに来たの?」
…核心を突かれた。
出来れば言いたくないことだけど、ずっと黙ってることもできないだろうし、嘘をつくこともしたくない。
僕は、クラスのみんなに、前の学校で起きたこと・受けた仕打ちを、すべて話した。
「…何よそれ」
「酷すぎ!そいつらホントに人間なの?」
「たっくんは何も悪くないじゃん…」
「拓真くんは強いね。よく耐えたよ…」
憤慨する人、愕然とする人、同情してくれる人…反応は人それぞれだが、気持ちはみな一緒のような気がした。
「拓真くん…」
茉莉菜ちゃんが言葉を必死に探しながら、僕を見つめる。
「拓真くん、苦労したんだね」
「ま、まあ…」
茉莉菜ちゃんは、僕の両肩に手を置いて、強い目線で言い放った。
「私たちは、拓真くんを、そんな思いになんか絶対にさせないから…この学校で、私たちと一緒に素敵な3年間…まあ、もう2年半くらいだけど、一緒に過ごそう?私たちみんな、拓真くんの味方だから…ね?」
茉莉菜ちゃんが他の女の子たちのほうを見ると、みんな笑顔で、大きく頷いた。
「あ、ありがとう、みんな」
男は僕一人、でも、周りのみんなはとても心強い存在だと感じた。
この瞬間、僕は、前の高校での悪夢を、忘れ去ることができたような気がした―