『鵺と妖刀』妖気は伝染する 4
彼等は一向に立ち去る様子がない。
「どうする?まだ諦めてくれそうにないが…」
「大丈夫だ。どうやらここにいれば彼等には見えないらしい」
「なんだそりゃ?どういうことだ?」
「俺にもわからないが…おそらくここの入口が認識出来ないようになっているんだろう。だから彼等はこの中に入ろうとしないんだ」
そう言いながら佐次郎は入口付近に近寄ってみせる。
野盗達のすぐそばに佐次郎が立っているというのに、やはり中には入ってこなかった。
「そういうことか。しかし困ったな。これじゃ外に出られないじゃないか…」
そう言うと、五郎蔵はその場に座り込んでしまった。疲れたのだろう。無理もない。
「とりあえずは外の奴等の目的が何なのかじっくり観察するべきだ。花がどうこう言っていたが…?」
「花?そういえばここに変な花が何本も生えているな、それを探しているのかな…」
五郎蔵が指さしたのは、洞窟の奥の壁際に生えた一本の植物であった。
茎は長く伸びており、先端の方に大きな花が咲いている。色は赤紫で、花弁の形状は百合に近い。
よく見ると、その花からは何か液体のようなものが滴っている。
佐次郎はそれを見て、嫌な予感がしていた。
その花の形状は、佐次郎にとって見覚えのあるものであった。
それは、彼が以前立ち寄った村にて村人達が大切に育てていたものと同じ形をしていたのだ。村人が言うには近づいた者の意思に影響されて何らかの物体を生成する能力があるらしい。
だがそれは失敗作で、生成されるのは醜悪なものばかりであり使い物にはならなかったそうだ。そして今、目の前にあるものは間違いなくそれと同一のものである。
「おい、あの花ってまさか…」
佐次郎が声をかけると、五郎蔵は不思議そうな顔をしながら答えた。
「ん?あの花がどうかしたのか?見たところただの花にしか見え…」
そこまで言いかけたところで、彼は突然顔を青ざめさせた。
花から何かが這い出るように吐き出されていく。
それはおぞましい赤黒い色をした粘液状の物体であり、ブヨブヨとした質感をしていた。嘔吐物のような異臭を放ちながら地面にこぼれ落ちていく。
「な…何だこりゃあ…」
五郎蔵は悲鳴を上げて後ずさった。佐次郎は身構えながら花に近づき、粘液状の物体を観察する。
「…この花は近くに居る人間が欲しがっている物を作り出す花だ。これは失敗作だから醜い物を作ってしまうがな」
「近くに居る人間?もしかして野盗達が欲しがっている物を作ったのか!」
二人は野盗達が何を望んでいるのかわかっていた。
素っ裸で股間を泡で隠して追いかけてくる様な野盗だ。その目的は一つしか無いだろう。
汚らしい赤黒い粘液まみれになった花が、ひときわ強く異臭を放つ。悪臭としか言いようがないその香りに、二人は顔をしかめる。
その香りは洞窟の外をうろついていた野盗を引き寄せていく。この洞窟は何らかの力で外からは見えない様になっているらしいのだが、禍々しい芳香はその力をも貫通して野盗達を呼び込んでしまう。
彼等の目は一様に血走っていた。
よほど我慢していたのだろうか、股間のイチモツははち切れそうなほど膨らんでおり先走り汁で濡れそぼっていた。
野盗達は我先にと洞窟の中へ駆け込んできた。洞窟の中は狭いため、全員がも同時に入り込むことは出来ないだろう。
しかしそんな事などお構い無しといった様子で、我先にと奥へと入り込もうとする。