ノーマンズランド開拓記 8
これにはルークも困った。
教授と言う肩書きを持つがハーヴィンは女だ。
確かに身体の凹凸はどちらかというと控えめだが、そのボディーラインは紛う事なき女性のもの・・・全く恥じらいもなく脱がれると困ってしまう。
「とりあえず、近くに洞窟状の穴があるので、そこを仮の牢にしましょう」
クラウスもハーヴィンの脱ぎっぷりに呆れながらも、ジェシカ達に命じて急きょ作らせた牢獄に蛮族の女達を入れ、ついでに傍にハーヴィンが滞在するための掘っ建て小屋も建てさせた。
今のところ捕虜となった女達は大人しいが、一度暴れだせばその力は脅威だ。
逃してしまう事も考えたが、なにより情報が欲しい。
もしかしたらハーヴィンがそれを見つけ出すかもと淡い期待を寄せつつ、ルーク達は後片付けを始めた。
・・・それから数刻後。
牢にやってきたのはクラウスの娘のエリスだった。
食料を抱えてやってきたエリスだったが、蛮族の女達はエリスを見て牙を剥き威嚇の唸り声を上げた。
「ああ食事かい?そこに置いておくれ・・・」
洞窟檻の手前、小さく悲鳴を上げたエリスにハーヴィンは言う。
「み、みんなと離されたから余計に警戒しているのでしょうか・・・」
「そりゃそうだろうね、私だって逆の立場なら警戒するよ」
エリスの質問にハーヴィンはノートを取りながら答える。
「一応、彼女たちにも言語があるらしい・・・なんとかなりそうな気配だね」
彼女は恐怖よりも学術的興味が勝っているのだろう。
裸のまま楽しそうですらあった。
逆に巨体の蛮族女達は必要以上と思われる警戒心をエリスに見せていた。
「どうも彼女たちにとって衣服を必要以上に着るのはタブーらしいね・・・お嬢さんに威嚇するなんてさ」
当然ながらエリスからすれば逆に人前に裸を晒す方が恥ずかしい行為である。
だが、この時のエリスは何かしら感ずるものがあったようだ。
幾度か逡巡しながら、とうとう意を決してエリスは服を脱いだ。
「だ・・・大丈夫ですよ・・・食べるものを・・・持ってきただけ・・・ですから・・・」
裸になったエリスの身体はハーヴィンとは逆に女としては豊かな凹凸・・・
警戒していた蛮族の女達が何やら互いに言葉らしきものを発する。
「なんだ、私の身体じゃ貧弱すぎてお気に召さなかったのか・・・」
憮然とそう言うハーヴィン。
エリスは若干へっぴり腰になりながらパンを彼女達に差し出してみる。
「大丈夫・・・危ないものじゃないですからね・・・」
蛮族の女達は若干警戒を緩めながらも、差し出されたパンとエリスを交互に見る。
その視線の大半は彼女が密かにコンプレックスに感じていた豊かすぎる胸に注がれているのは、同性であれ恥ずかしい。
「ほら…毒じゃないですよ…?」
エリスは檻の前でパンをひとカケラちぎって食べて見せた。
そして檻の中の女達に残ったパンと一緒に持ってきたハムとワインを差し出す。
蛮族の女の一人が檻の隙間からニューッと手を伸ばして来た。
ところが…
「……へ?」
その女が掴んだのは、何とパンではなく、エリスの豊かな乳房であった。
何の躊躇いも無く片乳を鷲掴みにし、遠慮の無い手付きで揉みしだく…。
「イ…イヤアアァァァァァー――――ッ!!!!?」
エリスの悲鳴が辺り一面に響き渡った…。
同じ頃、ルークは開拓団の主だった面々と共に、今後の予定…特に蛮族達の対策について話し合っていた。
「ヤツラは敵です!!ヤツラが我々に対して明確な敵意を持っている事は昨夜の襲撃で明らか!!もう戦うしか無いんですよ!!」
吼えているのは元軍人のベイウッド。
親分肌で開拓団の男達のまとめ役的な存在だが、いささか思慮が浅く荒っぽい所がある。
「まぁ、そう結論を急ぐなベイウッド。お前の悪い癖だ…」
クラウスがたしなめる。
二人は故国にいた頃は共にライオネス伯爵の軍に身を置く上官と部下という関係だった。
「いまハーヴィン教授が彼女達の生態を調査中だ。結論を出すのは早かろう」
「そんな悠長な事でどうします!?火力は我々の方が優っているんだ!!ヤツラの拠点を見付けて叩き潰すべきです!!でないと絶対にまた襲って来るに違いない!!早急に手を…」
「それは駄目だ!!」
ベイウッドを遮ったのはルークだった。
ルークは懐から“ある物”を取り出してテーブルの上に置いた。
「これは…見事な物ですね」
それを見たジェシカは思わず溜め息を吐きながら見入った。
そこにあったのは石の小刀…刃の部分は丁寧に磨き上げられた石器、柄は木で作られており細かい装飾が彫り込まれている。
ルークは言った。
「…こういう物を作れるという事は、彼女達が野蛮人ではなく文化を持った“文明人”である証拠だと僕は思う。なら僕達とも理解し合う事が出来るはずだ」
「し…しかしルーク様!!ヤツラは明確な敵意を持って我々を攻撃して来たのですよ!?」
「そこなんだ…僕も気になっている。最初の遭遇時の戦闘は、未知の存在に対する警戒心から攻撃して来ただけだとしても、二度目の夜襲の際には、彼女達は明らかに敵意を持って僕達を襲って来た…」