(続)格好が・・・ 52
「わかるわ。私もそうだったから」
麗美は、店内に飾られている『アダムとイブ』の方へ顔を向けた。
「あの絵ね、初め、コーくんと私がモデルを頼まれたのよ」
「へえー…そうなんですか!」
麗美の話に卓也が応答すると、
「ああ。麗美と一緒なら俺はいいと思ったんだけどな…」
光平が言った。
「どうして引き受けなかったの?」
瑞穂が麗美に尋ねる。瑞穂と卓也は、『アダムとイブ』と『白き天使』が麻生広夢が描いた物だと、既に聞かされて知っていた。
「だって私…コーくん以外に…自分の裸を見られたくないもん」
麗美は照れながら応えた。そして、『アダムとイブ』を見つめながら話す。
「あんなふうに、幾ら絵でも、私やコーくんの素っ裸が大勢の前にさらされるなんてとても嫌だわ」
四人は改めて『アダムとイブ』を眺めた。
「片野さんがOKして飾ってる…片野さん、大胆ね」
麗美は独り言のようにつぶやく。
「優奈の妹、誰かのヌード描くのかな」
少し間をおいて麗美はさらに言う。
「クラスメートの男子が、モデルになるかもです」
卓也が、誰とも見目を合わせずに応える。
更に間をおいて、
「彼女、男子のヌードを描くことに執着してますから」
卓也が言うと麗美が、
「そうなんだ!優奈の妹って、随分と大胆な子なのね」
麗美は彩奈にはまだ会ったことがない。
「そういえば彩奈ちゃん、タク坊を描く時、タク坊の緊張を和らげる為とか言って、自分も水着になったのよ。…誰か男の子のヌードを描くことになったら、あの子、自分も素っ裸になるんじゃないかしら…」
「うん!あの子なら、それは考えられるな」
瑞穂の話に卓也が応えた。笑い合う2人。
「ねえ。卓也くんの絵、彩奈ちゃんに頼んで、このお店に飾ってみたいと思うんだけど。卓也くん、どうかしら?」
雪乃が卓也に話した。雪乃も、卓也の姿を描いた彩奈の絵をスマホの画像で見ていた。
「彼女、連休が明けたら学校に持って行くって言ってましたよ」
そう卓也は雪乃に応えた。
「だから、学校で暫く展示した後で…」
雪乃は、卓也のセクシーな姿を描いた絵を飾ることで多くの女子を引き寄せ、店の客が増える効果を考えた。
卓也「ちょっと恥ずかしいけど…彩奈ちゃんが承知すれば…いいですよ」
雪乃「ありがとう!彩奈ちゃんには私から後で伝えておくわ」
カップル2組は“トキメキ”を出て、それから、エステサロンへ向かった。そこは広夢の母の英里子が店長を勤める店だったが、真美が1か月そこへ通って、すっかり奇麗になったことで、校内で評判になっていた。
瑞穂は卓也との初体験に備えて身体を磨いておこうと、半月前から通い始めていた。麗美も、じゃあ私もと、そのサロンを利用してみようと思い、この日、瑞穂と共に予約していた。その2人の付添いで卓也と光平も一緒だった。
「あら!瑞穂ちゃん。それに麗美先輩…」
エステサロンに入ると、テニス部キャプテンの瑠璃がいた。
「瑠璃ちゃんもここのサロンを利用してるの?」
「ええ。今日初めてなんです」
「そう!私もよ」
瑠璃は麗美の1年後輩で、テニス部で一緒だった。
ピンクのナース服に身を包んだ受付担当者が初めての人に問診票を渡していき、卓也と光平にも渡そうとした。
「あの、僕たちは付き添いで」
「そうなんですか?あ、でもせっかくだから相談だけでもいかがですか?相談無料です」
「ここって、女性だけじゃないんですか?」
「はい、最近は男性のお客様もかなり増えていますよ」