そして、夜が明けた・・・・・・

皆は早速、輸送船スペランカーから荷下ろしに取り掛かる。
サワークラウト（キャベツの漬け物）や干し肉などの食糧に始まり、銃や拠点防衛用の旋回砲といった武器、それに大工道具をはじめとする工具。もちろん調理具、衣類などの生活用品もある。
メンバーの中の大工たちは大工道具と資材が下ろされると、さっそく樵(きこり)達と協力して木造の家を建てはじめた。
スペランカーに乗り込んでいた８人のメイド達が、荷下ろしや建設に汗を流す人々に炊き出しを行う。
にんじんとタマネギのスープの香りが辺りに漂う。
交代で食事をとりながら、総出での荷下ろしが続き、夕方にはスペランカーの船倉はほぼ空になっていた。
誰もがそれだけ張り切っていたのだ。

ルークに浮かれた表情は無い。
この入江に突き出した岩山に物資を運ぶように命じ、彼自身が率先して岩山に登る。
この岩山はいずれ港を守る砦や灯台になると思い、それ故にここを上陸地点と決めたのである。
最初から使うとは想定外だったが、あの蛮族がいるなら皆を守る砦になるだろう。
「なかなかに広い場所ですな・・・これなら全員住んでもお釣りがきますな」
荷物を台地状の山頂に運ぶ指示をしながらクラウスはそう言って笑うが、彼の主は遥か遠くを見ていた。

浜付近の密林の向こうには赤茶けた山。
沖合から陸地を見つけた時に真っ先に見えた山だ。
そしてその更に向こうに、長大な大河に貫かれた大平原・・・

地平線が見える程に広がる大地にルークは目を奪われていた。
「クラウス、アルディアは広いなぁ…」
ルークは少年のように瞳を輝かせながら言った。
「ええ、まったくですなぁ…」
クラウスもしみじみ答える。
ルークは語った。
「…これからはここが僕達の第二の故郷だ。クラウス、僕は決めたよ。必ずこの地を切り拓いて、本国にも引けを取らないような素晴らしい国を作る。僕達の、この手で…」
「そいつぁ良い。やりがいがあるってもんだ」
「頼り無い開拓団長だけど、これからも僕を支えてくれるかい？クラウス…」
クラウスはドンッと胸を叩いて答えた。
「お任せください！このクラウス、若のためなら例え火の中、水の中…何なりとお申し付けください」
「ハハハ…頼りにしてるよ」
そして二人は再び果てしない大地に視線を戻す。
故国アスファルティアでは見た事も無いような大きな夕日が、真っ赤に燃えながら西の地平へと沈んでいった…。


…その夜、開拓団は岩山の山頂にテントを張り、荷揚げした物資と共に夜を明かす事にした。
下の入江の浜に建築中の家はまだまだ未完成、当面はテントが仮住まいだ。

深夜、それは起きた。
　パァンッ　パァーンッ
「…っ！？」
静かな夜に突如として響き渡った複数の銃声でルークが目覚めると、テントの布越しに見える外が妙に明るい。
そして物の焼ける匂い…。
「…火事っ！！？」
慌ててテントの外に飛び出すと、生活物質の入った木箱の山が炎に包まれていた。
いくつかのテントも燃えており、既に人々が消火活動に当たっていた。
「なんて事だ…」
「ルーク様ぁ！ご無事でしたか！」
ルークが愕然としていると、ジェシカが銃で武装した男達を連れて駆け付けて来た。
「ジェシカ、これは…！？」
「やられました！蛮族共です！ヤツラ、夜陰に紛れて近付いて来て火矢を射掛けて来ました！」
「夜陰に紛れてって…山頂へ通じる坂道には不寝番を立てて警戒してたじゃないか…まさか！？」
「ええ、信じられませんがヤツラは海側から断崖絶壁をよじ登って来たんですよ！人間業じゃない…完全に予想外でした」
「畜生・・・あの俊敏な動きを見た以上は予想しておくべきだった！」
ルークは悔しがり、近くの岩を殴りつけた。
「とにかく迎撃しましょう！幸い、奴らの数は少ないようです！」
「ああ、反撃だ！奴らがどういう意図で僕らを攻撃して来るのかは解らないが、こっちだって黙ってやられる訳にはいかない！」
駆け出しながら手を伸ばしたルークに部下の１人が銃を渡す。
火災炎を頼りに素早く狙いを定め、発砲！
　パァーン！
ルーク達には不可能な高機動を見せる襲撃者の１人の頭を直撃し、見事に破砕した。
脳漿が飛び散り、そのまま息絶える。
「さあ、やるぞ！」
ルークの発砲を戦闘命令と受け取りジェシカが叫び、部下たちも発砲を開始した。
ルークも替えの銃を受け取ると撃ち、別の敵の頭を吹き飛ばした。
「おおっ！」
ルークの射撃の上手さに、部下達も勢いづく。
彼らの銃口から発砲炎が途絶えた時、現地民達は姿を消していた。
数名の屍を残して。