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華が香るとき〜外伝〜
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華が香るとき〜外伝〜 35

「結論から言うと、ここに入部したいと思ってます。ぶっちゃけこっちに来てから、友達とか全然いなかったんで……」
「そうですか……」
洋介の顔に、自然と笑みが浮かんだ。貝丞もまた、満足げにうなずく。
「でも……」
しかし、福名の言葉には続きがあった。
「しばらくは、名前だけの部員になると思います。実は今ちょっと、活動には参加できそうにないんです」
「と言うと?」
貝丞が尋ねた。福名は大きく息を吐き、二人に向かって逆に質問する。
「遅くなるかも知れませんけど、構いませんか? 少し長くなります」
即座に洋介は答えた。
「明日の朝まででも、聞きましょう」

…………

福名の話は、次のようなものだった。
彼は元々静岡に住んでおり、高校進学を期に東京へ出て来ていた。だが、家を出るとき家族の猛反対に遭ったという。
「家族と言っても、血は繋がっていないんですけどね。僕の両親、僕が小さいときに死んじゃって……」
「…………」
「…………」
ともあれ、福名はようやくのことで家族を説得し、月倫高校へと入学した。
ところが、実家の人達は金がないわけでもないのに、約束していた仕送りを送って来なかった。さらに福名がアルバイトをしようとすると、保証人になってくれない。嫌なら帰って来いの一点張りだという。
「それで、あまり全うでない手段で金を稼ぐしかなくなりました」
そこまでして福名が実家に帰りたくない理由を、洋介も貝丞もあえて聞かなかった。虐待やネグレクトとは行かないまでも、おそらく相当に辛い思いをしたのだろう。わざわざ聞き出すのは野暮というものだ。
「まず最初に、ピットファイティングを始めました」
「ピットファイティング?」
「喧嘩に自信のある人同士が、金を賭け合って喧嘩をして、勝った方が金を取れるんだよ。洋介」
「ええ。そうです……」
福名は喧嘩の強そうな男を見かけては、話を持ちかけて喧嘩をした。最初のうちはうまくいく。福名の容姿に騙され、金を巻き上げられる者が続出したのである。ところがすぐに噂が広まり、対戦するものがいなくなった。そして噂の流れていない地域へと足を伸ばすうちに、とうとう交通費が稼ぎを上回ってしまう。
「それで、ガマの油売りですか……」
「はい……」
ある日福名は、食料を取りに下宿近くの山に出かけた。そこでガマがうようよいる沼を見つけ、天の助けとばかりにあの商売に打って出たのだという。
「自分で調合してるんですけど、本当に効きますよ。ちょっとやって見せます」
彼は学ランの袖をまくり、カッターナイフを出して自分の腕を傷付けようとした。洋介と貝丞は慌てて押し止める。
「その必要はありません」
「あのパンフレットを見れば、効くのはよく分かります」
「はあ……」
福名はしぶしぶ、カッターナイフをしまった。

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