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華が香るとき〜外伝〜
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華が香るとき〜外伝〜 27

「しかし、オナニストとしての俺はまだまだ未熟です。真のオナニストは、雷が落ちようと弾道ミサイルが炸裂しようと、決して手を止めませんから」
「なるほど……」
少年は感じ入ったという様子で、何度も頷いた。
「申し遅れました。自分は玉波貝丞といいます。神奈川から参りました」
「あ、俺は中村洋介です。埼玉からです。意外と近いですね」
二人は自己紹介を交わす。ちなみに会場は北海道だった。
「そろそろ戻りましょうか。休憩時間が終わりますから」
「もうそんな時間か……そうしましょう」
貝丞が先にトイレを出る。座っていたときは背もたれで分からなかったが、彼のTシャツの背中には「極悪」という文字が大書されていた。やはり相当な変人だ。洋介は手を洗ってから後に続いた。
ホールに戻った二人は、再び並んで講義を拝聴し始める。貝丞はもう眼を閉じることなく話を聞いていた。洋介もオナニーはせず、聞きたい講義が始まるのを大人しく待つ。そしてついに「オナニーについて本気出して考えてみた」が始まった。
(さあ、いよいよだ……)
洋介は眼ならぬ耳を皿のようにして聞き入った。彼にとってはオナニーで新境地を拓けるか否かの瀬戸際である。一言一句も聞き漏らすまいとした。

…………

発表が終わった。かなり参考になる内容だったと洋介は思う。
(最新の研究によると日本人で初めてオナニーをしたのは……ええと、誰だったっけ?)
突然、洋介は発表の詳細を思い出せないことに気付いた。決して記憶力が悪いとは言えない彼だが、それでも人間はテープレコーダーではない。必ず抜けがあるのだ。思わず頭を抱えてしまう。
「どうぞ」
「え?」
洋介が隣を見ると、貝丞が数枚の紙片を差し出していた。受け取ったそれには、今の発表の要点がびっしりと書き込まれている。洋介は気付かなかったが、貝丞が書き取っていたのだろう。あの殺気を出さず、ごく普通に。
「す、すみません……」
「いえ」
洋介はありがたくメモを受け取ることにした。

やがて全てのプログラムが終了し、発表会はお開きとなる。どちらから言い出すでもなく、洋介と貝丞は共に会場を後にしていた。
「自分はもう神奈川に帰りますが、洋介さんは何か予定でも?」
「いや、俺も帰ります。早く帰らないと父さんが淋しいって泣くんで……」
「そうですか。仲がいいんですね……」
洋介と貝丞は駅に向かった。寝台特急の切符を買ってから発車時間までの間、レストランやゲーセンで時間を潰す。ふと学校の話題になり、二人は同じ学年だと分かった。
「もう敬語は止めますか?」
「そうしましょう。いや、そうしよう」
それからは互いに敬語抜きで話す。寝台特急に乗ってから、洋介は自分の家族のことを話した。父親のこと、そして行方の知れない母親のことを。
「そうか……」
「なるほど……」

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