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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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続編/律子その後-9

3、絵美 律子に告白

 「銀座BBサロン」は、「銀座BBモデルクラブ」から独立させ、絵美が立ち上げたエステティック・サロンである。モデルクラブの営業も、律子とのコンビで相変わらず忙しい日々であったが、1週間に一度はサロンに現れて全身エステを受けていた律子は、フランスから帰ってからは受けようとしなかった。
 毎朝の社内会議でも、時折上の空で呆然としていることがあり、絵美は他の役員の手前気が気ではなかった。だからといって、律子の決定が間違ったことはなく、仕事に齟齬が生まれることはなかったので、役員たちも、翔子の死が、この女社長に払拭できない悲しみを与えているのだろうと想像できた。役員には鴻作も入っていたが女性中心であり、その間では律子と翔子の関係は衆知のことであったので、多少大目にみる甘さがあったのだろう。
 とはいえ、絵美からしてみれば、役員たちが考えるより深刻に律子の心を忖度しないではいられない地位であり、個人的歯がゆさでもあった。

 今日もまた、お通夜のような会議の後、二人になった絵美はついに爆発した。
「律子、いい加減にして。翔子さんを失った悲しみは、程度の差こそあれみんな一緒なのよ。あなたは、社員100人もの生活の責任を負っているのよ。私は……私は律子のためなら、死んでもいいと思っているくらいだから、あなたの悩みを代われるものなら代わってあげたい。でも、この会社の社長はあなたなのよ。しっかりして!」
 律子の翔子に対する執着を断ち切りたい一心だった言葉が、律子への愛の告白になっていた。
「ごめんなさい……」
 会社での立場を逆転させて叱られた律子は、まるで母に叱られた娘のようにしおらしく謝りながら、絵美の胸に飛び込んでしゃくり上げた。
「もう駄目なの私。お姉ちゃんが恋しくて恋しくて……私、死にたいくらいなの……」
 それを聞いた絵美は返す言葉がなく、ただ、肩を震わせて泣く律子を抱きしめるより術がなかった。
「私の胸でよかったら、たんとお泣きなさい……。私は……私は律子を……」
「言わないで……余計辛くなる……」
「でも……言わなくちゃ……。律子……最初に律子がブティックに来たときから、今日までじっと耐えながら律子を愛し続けてきた私を置いて、死にたいなんて言わないで。愛してるのよ律子……。律子」
 絵美は、やっとの思いで吐き出してしまった自分の言葉におののきながら、律子の髪の奥にキスをした。
 絵美の口から初めて吐き出された告白を聞いた律子は、ようやく涙を拭い、自分のバッグから取り出した分厚いプリントの束を絵美に手渡しながら言った。

「絵美……私も絵美の気持ちを知らなかったわけじゃないの。でも、絵美にも分かっていると思うけど、どうしようもないことてってあるのよね。ごめんね絵美。あなたは、尊敬できて、誰にも代えがたい大切な人よ。だから絵美に……私がどういう女か知って欲しいの……。これを読んで……」
「何なの? これ……」
「鴻作さんと私に宛てたお姉ちゃんの遺言と、告白なの。お姉ちゃんのことも絵美に知って欲しいと、今、決心したわ。私のことも書いてあるし、恥ずかしいところもあるんだけど……読んで頂戴」
「…………」
「私は……お姉ちゃんに全てを捧げてしまった抜け殻なの。こんな私に絵美の人生を無駄にして欲しくない……これをお読みになったら、多分、私のことを嫌いになるわ……と思う」
 やっとの思いで振り絞った自分の勇気を褒めてやりたい、と思った矢先の律子の言葉が、激しい後悔の念を絵美に起こさせてしまった。
「こんな……大切な律子の想い出を、私が読んでいいのかしら」
「ええ……読んで頂戴。私が愛したお姉ちゃんが、どれだけ素敵な人だったかを……絵美にも解って欲しいから……」


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