投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最初へ Odeurs de la pêche <桃の匂い> 27 Odeurs de la pêche <桃の匂い> 29 Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最後へ

第4章 展開-2

 
 醜い傷って一体何だったのだろう。母は、自分に対して心を開かなかった腹いせに、ミニョンの美しさを奪おうとして顔に大きな火傷でも負わせたのだろうか……ミニョンを連れ帰った父は、そして、母は、サキたちは……その間一体何をしていたのだろう……。
 ミニョンと母は、再び会ったのだろうか、父はミニョンをフランスへ帰してしまったのだろうか、それとも……考えたくないけれど、お医者さんの言葉をまともに捕らえれば、もう生きていないのだろうか……。
 おじさまに聞いても、<あの日以来父からの連絡がないまま心配していたが>と言うばかりで、本当に何も知らないようでした。父と母が亡くなってしまった以上、私個人の調べる力は弱く、仮にミニョンがフランスへ帰国していたとしても、あいまいな動機での調べる方法を持たないまま諦めるより仕方ありませんでした。

 歴史のある屋敷は処分することにして、私はマンションを買って移る決心をしました。母が引き継いだ莫大な遺産は、会社経営によって増えることはあっても減ることはありませんでした。母の事故死の新聞報道で、私が天涯孤独の身になったことが分かると、かつての親類縁者がハイエナのように押しかけてくるようになりました
 鴻作おじさまが目まぐるしく動いてくださいました。母の会社も手放すと、私には信託預金としてかなりの財産が残されました。私は、一足先に懐かしく悲しい家を離れ、生まれ変わるつもりで新しいマンションへ移りました。
 由緒のある品々や母の高級品、調度品の類は、例のハイエナたちが綺麗に始末してくれるでしょう。ハイエナたちが襲ってくる前に、私はミニョンの私物以外一切持ち出しませんでした。私の寝室を唯一華やかにしてくれたボッティチェリの絵さえも持ち出す気にはなれませんでした。
 ミニョンそのものであると同時に、誰の手にも触れさせたくないミニョンの私物は、マンションの私の寝室とは別の一室に収めたことは誰も知りませんでした。
 別れに際し、小枝子と智代は若かったので問題はありませんでしたが、サキだけは私を一人にできない、と泣きわめき、説得に苦労しました。私は、全てをおじさまの手に委ねて、自分のこと以外考えない冷たい女になっておりました。
 結局サキは、おじさまの世話をする、される、といった関係でおじさまに引き取られることになりました。おじさまの家にいる限り、私にも自由に会えるし、時に応じて私の世話もできる、ということで納得してくれました。
 
 新居に移ると、目に触れる想い出の品がない分、少しは気分も変わるかと思いましたが、胸に残る傷が和らいだわけではありませんでした。そして、ミニョンによって刻まれた欲情は、私の身体に快感の反応が無くなったからといって消えたわけではありませんでした。ミニョンに抱かれたい。あの日の喜びを感じたい……その想い出が襲ってくると、頬の裏から唾液が溢れるのです。そんなときは開かずの間に入って、ミニョンのパンティーの匂いを嗅いでみるのですが、新しいものにミニョンの匂いがあるわけはなく、自分の敏感であるべき場所をまさぐってみても、却って空しさが襲ってくるだけでした。むしろ、ミクの体や襞の匂いを直に感じながら悲鳴を挙げさせる方が、空しさが少ない分救われるのでした。
 私は、次第にミニョンの物で溢れた部屋に入っても、ラベンダーの香りにも泣かなくなっていきました。朝の入浴は、ラベンダーのアロマを当然のように注ぎました。そしてミニョンのパンティーを履き、登校や外出、普段着にいたるまでミニョンの衣類で装うようになったのです。今まで使っていた自分の私物は全て捨て、伸びていた髪は亜麻色に染め無造作に巻き上げたりしました。
 ミニョンの衣服に対するセンスは、明るく、洗練された優雅さがあり、私自身ミニョンの装いが大好きでしたので、殆ど違和感がなく着こなせました。
 ミニョンは死んでいない……。どこかで生きている、と思うように努めました。たとえ淡雪のように消える希望であっても、希望は希望だと自分に言い聞かせたのです。それが、母お仕着せの地味な衣服を全て捨てさせたのです。母は、私の美しさが妬ましかったのではないか。だから、目立たない色彩で装わせ、私を暗い人間に見せようとした。それが却って私の色白さを引き立ててしまうことになると気付かなかったのでしょうか。ファッションの仕事をしていながら、いつも華やかな人や物に囲まれて、自分の娘のことになると冷静な判断を見失っていた……?
 母の死を知ったその日から、毎日のように、母やミニョン、想い出や会話。あれこれ脈絡もなく、思い巡るままに考え、そしてこのように変化したのは、今までの私自身に対する反逆行為でもありました。
 <Mignon……Tu et j'êtes devenus un.(あなたと私は、ひとつになったのよ)>
 私は、朝の着替えの度に姿見に映る自分をミニョンに見立てて語りかけると、次第に自分がミニョンに見えてくるようでした。ひょっとして私は、<Double personnalité(二重人格)>というサイコの世界に入ってしまったのかしら、と、もうひとりの私が苦笑いをしています。でも、ミニョンになれるなら気が狂ってもいい、とさえ思うことがありました。



Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最初へ Odeurs de la pêche <桃の匂い> 27 Odeurs de la pêche <桃の匂い> 29 Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前