投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最初へ Odeurs de la pêche <桃の匂い> 44 Odeurs de la pêche <桃の匂い> 46 Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最後へ

第4章 展開-19

「イヤだ……宝塚知らないなんて……ホント、お姉ちゃんて、大人なのか子供なのか……どう言えばいいのかしら……歌舞伎が男社会とすると、宝塚は女性だけで演じる世界なの。女優さんが男役の化粧をするんだけど、その男役に憧れる女性が多いそうよ。お姉ちゃんはそういうんじゃなくって、ものすごく女性的な外見の中に、宝塚の男役のような色気があるっていうか……表現しにくいなあ。女性同士の安心感から、その美しさに憧れるんじゃないかしら。そうよ。女性の憧れがお姉ちゃんの中にあるのよ……私がそうだから……」
「ふーン……難しいのね」
 美しいモデルたちを見ているのは楽しいと思って始めたモデルクラブも、こうした軋轢に似た様相を見せ始めると、私の中に少し歪んだ考えがあったのかも知れないと反省しました。モデルたちの間でトラブルが起こらないように、律子と絵美ならうまく差配するだろうと、私はできるだけモデルには関わらないようになっていったのです。

「リッコにもう一つだけ聞いておきたいことがあるんだけど……」
「なあに、あらたまって……?」
「リッコ、怒らないでね。さっきのモデルたちの話に関係するんだけど、絵美って、リッコのことが好きじゃないのかしら……」
「…………」
「絵美……リッコに何か言った?」
「私にはお姉ちゃんがいることは、ブティックの頃から知っているもの」
「そうね……そう言ってたわね。でもね……」
「…………」
「こんなこと言ったら、リッコに誤解されそうだけど……、ここでリッコと翔子が話しているのを絵美がね……、ふと切なそうな目をしてリッコを見ているのが気になったことがあったの。これだけ沢山の綺麗なモデルがいるのに……」
「……分かっているんだけど……私……」
「ごめんね。ただ、絵美の一途さが感じられてね。仕事上の名コンビが壊れるのを見るのはつらいわ……」
「絵美のことは、尊敬もしているし大好きな人だけど、こればかりは私にも……でも、絵美は大人ですもの……分かっていると思う……」
「ごめんね……この話……もう止しましょうね」

 私の個室は、時に律子と私の愛の部屋でもありました。私がマッサージを終えた後の1時間は私の休み時間として徹底しておりましたから、誰も入ってくる心配はありませんでした。一人でぼんやりしていると、マッサージ後の快い疲れがそうさせるのか、家にいるときより無性に律子の匂いが欲しくなるのでした。何時だったか、<社内でこんなこと、いけないかしら>と言うと、真面目な律子は真面目に答えるのでした。<治療の時間ですもの>
「私、一生懸命勉強したんです。お姉ちゃんのどこを刺激すれば、少しずつでも回復しないものかと……でも、やはり素人では難しいのね。それで、あのエステティシャンを引き抜いてきたのよ……」
「翔子専用のエステティシャンね。律子の心遣いは分かっていたわ。だって、隣でエステを受けている子とやり方が違うんですもの。」
「やっぱり、違う?」
「ええ……なんて言ったらいいのかしら、首筋でしょ? 脇の下、膝の裏なんか、そんな場所のマッサージって意味があるのかしら……。気持ちいいんだけど、かなり際どいところまでくるのね。この辺まで……」
「えッ……そんな所まで……? まさか、お姉ちゃんのを触っていないでしょうね?」
「それはないわよ。いくら女性のエステティシャン専門だって……」
「良かったァ……。彼女にはね、お姉ちゃんには悪いけど、症状のこと少しお話しておいたの。あの方は医学の知識があって、病院のリハビリをやっていた人なの。嫌がらないで私のためと思って我慢して続けてくれる?……」
「分かったわ。でも、律子は忙しんだから、翔子のことであまり気を遣わないでね……マッサージはきちんと受けますから」
 律子はそのエステティシャンの腕を信じているらしく、やがては必ず私と一緒にあの絶頂の時が持てる、と思っているようでした。それは、律子自身の乱れ方に表れておりました。私の愛撫に、眉間に皺を寄せて喘ぐ律子の顔を見るのが、実は働くことよりも一番の楽しみでした。

 最近では、味覚も殆ど感じなくなっていました。みんなの手前、また、律子のためにも、食堂では砂のような果物を食べ、鉛のような牛乳を飲むだけでした。
 律子の心配が分かるだけに暗い顔もできず、普通に振る舞っているつもりですが、私はもはや廃人と同じではないかと、不覚にも泣けてくるときがありました。そんな思いが頭をもたげるときは個室に籠もり、考える力も失せて涙の流れるままにボンヤリとしているだけでした。
 夜のベッドでも同じでした。律子は自分から求めることを止め、おとなしく私の胸に伏せて眠るだけでした。<あれは聞かなかったことにして>と言っても、私の慟哭が胸の奥に住み着いて離れない、と、その時を思い出す度に涙を見せることもありました。<律子と一緒に雲に乗りたい。それは翔子の願いだけど、適わないことを言っても仕方ないもの。今まで通りの律子でいてちょうだい>とはいうものの、律子の私に対する愛の深さは痛いほど伝わってくるのです。
 私の性感帯は、どれほど巧な技術をもつ人でも、多分、絶対に回復しないだろうと思っていたのです。私のような心因性の不感症は、性感帯がハンダ付けされた蓋で覆われているようなものです。ハンダを溶かすほどの強い熱が必要なんでしょう。


Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最初へ Odeurs de la pêche <桃の匂い> 44 Odeurs de la pêche <桃の匂い> 46 Odeurs de la pêche <桃の匂い>の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前