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Odeurs de la pêche <桃の匂い>
【同性愛♀ 官能小説】

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第3章 破滅-3

 母がミニョンを打擲するムチのような音がしました。
 私は震えながら、ミニョンの苦しかっただろう日々を想いました。その苦しみが、私を愛する激しさに向かっていたのだと初めて知ったのでした。母に打擲されているミニョンを想って泣きました。助けにいかなくては……と思う一方で、母に対する恐ろしさが逃げる方へと駆り立ててしまったのです。
 私の出生の話に及んだとき、私は望まれて生まれたわけではない、由緒ある家の体裁のためだった? 大声で泣きたくなる悲しみが、胸の奥から得体の知れない汚物となって吹き上げてきそうでした。もう私は、この先を聞く気は失せ、口を押さえながら、忍び足で自分の部屋に戻りました。


 二人の激しい争いとあまりのショックに私の思考は乱れ、ヒステリックな失神状態になっていたのだと思います。どれくらい時間が経ってしまったのか、鋭い絶叫のような声を恐ろしい夢の中で聞いたような気がしました。ハッとして起きあがると、部屋は真っ暗で、闇の静けさが漂っておりました。怖い夢がまだ尾を引いていて何をする気も起こらず、ただ、母とミニョンの争っていた内容だけが、繰り返し私の頭のなかを忙しく駆け巡るだけでした。頭の片隅では、ミニョンと二人でこの家を出るのだという希望のかすかな明かりが灯ってはいましたけれど……。
 暗闇でまんじりともせずに放心している私の耳に、タイヤの軋む音と、母の車独特のエンジン音が遠ざかって行くのが聞こえました。こんな夜中に、母はどこへ行くのかしら。あの後何があったのかしら……。ミニョンを打擲する音の恐怖が蘇りました。失神なんかしている時じゃなかった。ミニョンを助けに行かなくては……!
 <ミニョン! ミニョン! 大丈夫なの……ミニョン……?>
 私はミニョンの名を叫びながら母の寝室まで走りました。ドアは開き、明かりも点いたままでした。入ってみると、ロープやムチのようなものが絡まっており、引き裂かれた衣類や、アイロン、フォトスタンド……様々な物が散乱し、まるで泥棒にでも入れたような有様で、私は何が起こったのかが解らずに立ちすくんでいるだけでした。
 母も、ミニョンも、そして離れの暗さから察して、お手伝いの3人も居ないようでした。
 この部屋で起こったことの想像もできず、ただミニョンが気がかりで、一旦引いた血が逆戻りして私の頭は弾けそうでした。
 <ミニョン!……ミニョン!……>
 私は叫びながら階下へ走り降りました。階下も煌々と照らされており、普段と変わらない綺麗さはありましたが、無人の静けさの空気は異様なばかりに冷たく、転がった食堂の椅子ひとつだけが、何かの異常さを語っておりました。
 <ミニョン…………>
 纏っていたシーツを掻き合わせて、ミニョンの身に起こった懸念に苛まれながら、膝を抱えて彼女の名前だけを呼んでおりました。

「お嬢様!……」
 私はミニョンとキッチンで戯れていて、ミニョンがいなくなったなんて夢だったのね……、良かった、早く逃げましょう……悪い人に叩かれそう……早く翔子をしっかりと捕まえて。逃げましょう……。



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