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〜吟遊詩〜
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〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-13

「私の事、認めたの!?」
ユノは驚いて声を張り上げた。
「あぁ。漆が椀などに塗られていたことは知らなかったからな。」
ダリアンは適当にそう言った。そして自分の羽根をむしり、指を噛んで血を流すとその血を羽根につけた。
「お前、名は?」
羽根をペンのように持ち、ダリアンが尋ねる。
「ユノ!」
元気良く答える。瞬間、ダリアンの動きが止まった。
「ユノ?……そうか」
「うん」
ユノはまた元気良く答えた。
「そうだ。なんで私がダリアンじゃないって分かったの?」
ユノが最初の質問を思いだし不思議そうに言った。
「ダリアンは己自身。会えば分かる。自分と同じなんだから。私はここで私を待ち続けている」


「…じゃぁ、私がメインブロックの前に居たとき、私の事呼んだのは、アンタでしょ?なんでダリアンじゃない私を?」
血をインクにした羽根ペンを忙しなく紙の上に滑らせているダリアンに更に尋ねた。
「別に。暇だったから。と言うか、他のやつらは聞こえていなかっただけだ。私は常に呼び掛けていた。戦いたいからな」
契約書は複雑な記号が沢山書かれ、あとはダリアンの名前を入れるだけになった。
「……待って」
ユノがダリアンの手を握り、書くのを止める。優しいユノの顔がダリアンを覗いた。
「…ねぇ。私が本物のダリアンを探してあげるよ。私なんかに仕えなくていいから。でも、たまには力を貸してね」
ユノは笑顔で言った。ダリアンの小さな手を握ったまま自分の胸まで持っていく。今まで気付かなかったがユノの指先はキノコのお陰で赤く腫れている他に、ダリアンの肌と同じくただれていた。おそらく漆を摘んだときに自分もやられたのだろう。ダリアンはそれに一度目をやると
「契約をしないなら私はいつでもお前を裏切ることができる」
と言った。しかし、言葉とは裏腹に冷たさはなかった。
「別にいいよ。裏切られる前に本物のダリアンを見付けちゃうもん。それに、アンタの力なんか借りなくても済むかもしれないでしょ!!」
ユノは勝ち気そうに言った。
「そぅだな……」
ダリアンは小さく鼻で笑って紙を破いた。
「ねぇ、霧みたいに形がないアンタをどうしたら持ち運べる?一緒に旅したいから」
ユノ肩をすくめてダリアンに言った。ダリアンは驚いたように目を丸くしたが、少し考えて
「…そうだな。それになら…収まりそうだ」
と言い、ユノの右手のブレスレットについてる淡いブルーのガラス玉を指差した。
「これ?分かった!」
ユノはブレスレットを押さえて笑った。つられてダリアンも笑った。
「お前をここから出してやる。アイツについて行きな」
ダリアンの目が空を見あげた。その視線の先を見るとまたあの黒い蝶が飛んでいる。
(神出鬼没じゃん!?)
ユノは思った…

 ダリアンはユノが蝶に連れられて歩いていくのを、後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた。
「『ダリアン』以外でここに来れたのはヤツが初めてだ。でも…」
ダリアンは空へ舞い上がった。
「『ユノ』なら不思議じゃないな…」
ダリアンは森を見下ろして呟いた。
果てしなく広がる緑。
不思議と気分は晴れやかだった。



 ユノは蝶を追い掛けて歩いた。
「ねぇ、ここには君とダリアンしかいないの?」
ユノは黒い蝶に尋ねた。蝶は答えるはずもなく、変わらず金の鱗粉を撒き続けている。
「そっか〜淋しいね…」
ユノは答えない蝶に勝手にそう返事をした。
(……淋しいね)
歩く度に手足には激痛が走ったがユノはあまり気にならず、ユノもまた晴れやかな気分でいた。

 しばらく歩くと、ユノが最初に落とされた場所に着いた。
「ここ?…」
蝶はそこで前に飛ぶことを止め、その場で忙しなく羽根を動かしている。大量の鱗粉がユノにかかり、体を輝かせた。
━ザワ…ザワッ…━━
急に長く、大きな風が吹いた。
蝶は風に負けたように流されるまま、どこかへ飛ばされて行ってしまった。辺りは嘘のように暗くなりはじめる。ユノはすぐに蝶を目で追ったが、蝶は虚しくクルクルと回転しながら風に呑まれ、すぐに見えなくなってしまった。
「蝶々…」
さらにユノの周りの木々たちは、風の通った側から黒い霧のようになっていく。
(嫌な予感が…)
とうとう、ユノの周りの木や、地面や、空や…全てが黒い霧のようになり、ユノの足元から渦を巻き始めた。このメインブロックの中に来る時に感じた、あの感覚が思い出される。捻られる痛み。探られる不快感。
「またあの中を通って帰るの!?」
ユノの顔が泣きそうに歪んだ。周りを渦巻くスピードは次第に早くなり……。
(あぁ…来た来た来た…吐きそう!!)
ユノの目尻に涙が滲ぶ。黒い霧はユノを巻き込み、再びユノの体を運び始めた。


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