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〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

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〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-10

(今の言葉に変な所は無かったよな?)
自分が話した事を頭の中でなぞりかえした。
メインブロックが国の『御守り的なもの』として代々伝えられていたのは事実だった。しかし、エアルだけがあの本によりメインブロックの本当の意味を知ることになった。エアルはその事を誰にも言うつもりがなかった。本がエアルにしか伝えたがらなかった事を、わざわざ言うのは馬鹿というものである。
エアルの父の代か、祖父の代か、その辺りの兵士達は『メインブロック』なるものがこの城にあることだけは知っていた。だが、エアルが王に即いてからは、エアルはその存在をも誰にも告げる事はなかった。
「そうだったんですかー」
エアルの説明を聞いて部屋の者達が次々と頷く。
「でも、それなら言ってくださればあの部屋にも護兵を立てられましたのに…」また別の誰かが言った。この言葉にも皆頷いた。
「昔からメインブロックを狙う輩は少なくなかった。でも、城の者達ですら見たことのない物だとなると、その存在は薄れていくだろ?知っている者がいなければ余計な争いは起きないし、皆を巻き込むこともない。その方が得策だと思ったんだよ。黙ってて悪かったな。」
エアルが優しく笑いながら答えた。謎の解けた兵士達は再び思い思いに好きな事をし始めた。
皆の注意が自分から反れて、エアルは安心したかのように椅子にもたれかかった。
(余計な争いをしたくない…皆を巻き込みたくない…)
たった今、自分が言った事を思い出し、エアルは鼻で笑った。
(俺は嘘ばっかりだな…)

エアルは皆に背を向け、窓の外を眺めた。
そんなエアルの様子を心配そうに見つめる兵士がいた。この部屋の中でも、城の中でも最高齢を誇る老兵士だ。
この老兵士はエアルが隠し扉に入った時に
『昔色々あってな…可愛そうなお方なんだ』
と言った者だった。エアルの祖父の代よりこの城に仕えている。
老兵士は立ち上がりエアルの側に行った。
「王様…。」
外を眺めるエアルの背に向かって老兵士は話しかけた。
「シェンか……何も言うな。今はまだ…」
相変わらず窓の方を向きながらエアルは答えた。
シェンという名の老兵士からはエアルの表情は伺えなかった。

エアルは目を閉じた。
先代の王、父の顔が蘇る。厳しさの中にも優しさが有った。傍らにはいつも母がいた。若くて綺麗な母。二人は笑顔を絶やすことはなく、誰からも愛されていた。
エアルの瞼の奥に思い出されていた二人の顔が急に苦痛に歪んだ…。
エアルの中で次々とスライドされる思い出。
(こんな事、思い出したくない…)
エアルはそう思って、勝手に蘇ってくる思い出を拒むかのように唇を噛み締めた。
最後のシーンが浮かんだ。
血にまみれている自分の姿。 涙なのか血なのか分からない液体が顔を汚していた…━━

エアルは目を開けた。
「シェン。後であの部屋に行くのを付き合ってくれ」
ゆっくりとそう言うと、エアルは顔を見られないようにそっと部屋を抜け出した。


 「てん…天、天使?…いや。ナースか?」
ユノの前に現れた少女は髪を2つに結んだ間にナースキャップを被っている。胸しか覆っていない服と、ミニスカートに、何故か真っ赤なネクタイをしていた。左右長さの違うタイツはエロティックに所々破かれている。
背はユノより頭半分小さいくらいだろうか。いや、少女は相当底の厚い靴をはいている。実際はユノの肩までしかないのかもしれない。
「ここはメインブロックの中?貴方は誰?私は取り込まれてしまったの?もぅ出られないの?」
ユノは取り合えず溜っていた質問を少女にした。
ここにきて人間(のようなモノ)に合ったのは少女が初めてだった。ユノはこの期を逃すまいとしたのだ。少女は訝しげに眉を寄せた。
「ここはメインブロックの中。私はメインブロックの本体、【ダリアン】。お前はまだ取り込まれていない。私と戦って私に負けたとき、初めてお前は私に取り込まれる。逆に私がお前に負け、私がお前に屈服すればお前はココから出られる…。」
なんの感情もなく機械的にそこまで言うと、指を鳴らした。自らダリアンと名乗った少女の手元に一枚の紙切れが現れた。
「私がお前の力を認めて、この紙にサインをしたらお前の勝ちだ。無理矢理にでもさせてみろ。この紙によって私はお前に仕える契約をしたことになるのだから」
現れた紙を見せ、ダリアンは言った。
「あなた本当にダリアンっていうの?」
ユノはダリアンの説明を無視して尋ね返した。
「何度聞いても変わらない。私はメインブロック・ダリアン。お前が私に勝てたら他の質問に答える。その時、お前は私の主となるから。もっとも、『ダリアン』じゃないお前が私に勝てるとは思えないが」
ダリアンは無表情でそう言うと、持っていた紙切れを手から離した。紙が風に流れ不安定に落ちていく。
どこからかあの黒い蝶が再び現れ、落ち行くその紙を湖の小さな島まで運んで行った。


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