投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

〜吟遊詩〜の最初へ 〜吟遊詩〜 18 〜吟遊詩〜 20 〜吟遊詩〜の最後へ

〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-9

急に霧は晴れ、ユノは何処かに放り出された。
━━ドンッ!!━
堅いものに叩き付けられる。しかし叩き付けられた痛みを除けば、捻られるような体の痛みも、探られるような不快感も消えていた。
思いの外、ユノの意識はハッキリしている。辺りを見渡した。
ユノが叩き付けられたものは只の地面で、周りには木が沢山生えていた。森のようである。
ユノに優しい木漏れ日が降り注ぐ。
(これが、メインブロックの中??)
目の前に一本のでこぼこ道が通っていた。ユノが取り合えず進んでみようと思い立ち上がると、目の前に一匹の蝶がヒラヒラと飛んで来た。
真っ黒な羽から金色の鱗粉を巻き散らすその姿は、ユノを誘っているように見える。
「どこに連れてってくれるの?」
ユノのノーテンキな性格は相変わらずだ。
黒い蝶はやはりでこぼこ道を進んだ。
 暫くすると、向こうが見渡せるほどの小さな湖に出た。向こう岸には、岩肌の崖が高く構えている。そこから湖にむかって滝が落ちていた。
━━ドドドッ━━
心地好い滝の音…。周りは変わらず木に囲まれて、湖から細い川が森に向かって何本か流れ出ていた。
いつの間にか黒い蝶はどこかへ行ってしまっていた。
湖には、真ん中程に小さな島が浮かんでいた。そこに後ろ姿ではあったが、女が一人腰を降ろしているように見える。
女というより少女と言うべきか…。遠くて良く分からないが、その姿はかなり小さいように思えた。
急に風がざわめいた。
その風に乗って、ユノの周りに雪のように真っ白な羽根が舞い込んできた。
「…?何の羽根??」
次から次へと舞い落ちる羽根を捕まえてユノが言った。ユノは不思議に思いながらも、再び湖に浮かぶ島に目をやった。
そこにはもぅ少女の姿は無かった。
不意にユノの視界が暗くなった。雲が太陽を隠した時のようだ…。ユノは空を見上げた。
先程の少女が空を飛んでいた。少女の背中には小さな羽根が生えている。
視界が暗くなったのは少女の羽根の陰が原因だった。真っ白な羽根を振り落としながら、少女はユノの目の前に降り立った。ユノは思った……
(…一瞬、天使が舞い降りたのかと…━━)



 「思うわけねぇだろっ!!!」
ドンッと机を叩きながらエアルが叫んだ。
「どうしたんですか?」
横にいた兵士がコーヒーを煎れながら尋ねる。

エアルはユノが消えてから暫くあの部屋に立ち尽くしていた。しかし、あまりにも遅いエアルが心配になり、様子を見にきた兵士によって部屋から連れ出されてしまったのだった。
「いや…なんでもない。」
温かいコーヒーを一口飲んで、エアルは答えた。
エアルの頭の中にはユノが消える直前に言った言葉が浮かんでいた。

『エアル…』

『どうして私を…人を信じようと思わないの?』

「思わねぇよ……」
再びエアルは言った。今度は兵士にも聞こえないくらい小さな声で。

「…それで、侵入者はもぅいないという事でいいんですか?」
淡い、クリーム色のフカフカなソファーに腰を掛けていた兵士が尋ねた。
ここはエアルのプライベートルーム。暖かみもあり、柔らかい色で統一されたこの部屋はエアル専用の部屋のはずなのだが、あまりにも居心地がいいため暇な者達が常に十数人はここに来て談笑していた。今もかなりの数の兵士がこの部屋でくつろいでいる。

「あぁ。いない…。俺が行ったら逃げてしまった」
兵士の質問にエアルは少し上の空で答えた。
(やっぱり、取り込まれてしまったじゃないか。だから言ったんだ。『無理』だって。なのに、『大丈夫』とか言って。どこを信じろって言うんだよ。)
エアルは苛ついた。コーヒーを一気に飲み干す。
「あの部屋はどうしますか?」
今度は別の兵士が尋ねた。こちらの兵士は片手にココアを持ちながら、仲の良い仲間とチェスをうっていた。
侵入した者がいたというのに、なんともノンビリした城である。所詮、小さな国に過ぎないからなのか。それもあるが、兵士たちは皆、エアルを信用しているのだ。エアルがいれば安心できる。この部屋に自然と人が集まるのはそのせいでもあった。
「隠し扉は閉めておいたんだろ?後でまた様子を見に行って来るからそのままにしておいていいよ…。」
エアルは力なく答えた。兵士の質問によって、エアルの頭の中がユノの事からメインブロックへと移された。
「はぁ〜…」
部屋を思い出し溜め息をつく。
部屋は真っ黒なメインブロックが霧のように立ち込めているままであった。
時間が経ったからといって、あの状況が変わると言うことは有り得ない。どうすればメインブロックが元に戻るのか…エアルにはさっぱり思い付かなかった。
(メインブロックの力が暴走する前になんとかしないと…)
再び溜め息が漏れる。
「しかし、王様?あの霧はなんだったのですか?」
一番若そうな兵士が尋ねた。その言葉は賑やかだった部屋に沈黙をもたらした。兵士一同、その事が気になっていた。怖いもの知らずの若い兵士の質問のおかげで、部屋に居る者の視線がエアルに集まる。
「あれは…メインブロックだよ。国に平和をもたらすって言われていて、初代の王の頃よりずーっとあそこに置かれていたのさ。御守りのような…、まぁ一種の迷信なんだろうけど」
エアルは興味なさそうに答えた。しかし内心は緊張していた。


〜吟遊詩〜の最初へ 〜吟遊詩〜 18 〜吟遊詩〜 20 〜吟遊詩〜の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前