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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲(フーガ)〜第一章(前編)〜-5

5 重苦しい鉄の音と同時にドアが開いた。
そこに誰かがいるのは確かだろう。
闘夜の意識体の視覚にも人が立っている事がはっきりと分かる。
しかし、ここは夜の学校だ。
光など存在しない。
したがって闘夜はどんな人物が立っているかまではわからなかった。
顔すらも見えないので男か女かも判断はできない。
…もう少し近づいてみるか。
どうせバレないんだ、と思って闘夜は屋上に降り立った。
すると、その人物はいきなり口を開いた。
「もういらっしゃったんですね。」
「…!?」
闘夜は驚きの表情で見た。
聞き違いではないかと思った。
しかし、確かに聞いた。
もういらっしゃったんですね、と。
相手は女性だ。
しかし、そんなことはどうでもいい。
そのセリフは自分が立っていることを知っていないと言えないセリフである。
しかし、自分は意識体だ。
相手に見えている筈がない。
相手が普通の人間ならば見える訳がない。
しかし、相手は『冥界の使者』などと書くような人物だ。
…普通の人間じゃないのかもしれないな。
闘夜はもしかすると、自分と同じで、何らかの”能力”を持った人間なのかもしれない、と思った。
だから闘夜は口を開いた。
「俺が見えているのか?」
闘夜ならではの質問だ。
それに対して、
「もちろん。」
あっさりと、すぐに答えが返ってきた。
「座りませんか?」
と女性が尋ねてきた。
「ああ。そうだな。」
と言って闘夜は腰を下ろした。
その動作を見送るように、暗闇で女性が顔の方向をこちらの顔に向けている。
…やっぱり見えてるな。
自分の動作にぴったりとくっついたような頭の動きをしている女性を見て闘夜はこの女性は自分が見えている、と確信した。
闘夜が座ったのを見た後、女性も座る。
丁寧な座り方だった。
右足を後ろにひき、両膝を曲げ、右ひざが地面についたところで左ひざも地面につけての正座。
闘夜は自分の態度が失礼なのではないかと思い、あぐらをかく姿勢から正座に座りなおした。
「ふふっ、ラクにして下さってかまいませんよ?」
女性は大人びた笑い方をしながら言った。
まるでこちらを子供扱いしているようだ、と思った。
しかし、女性はこの後、ラクにしてよいと言う言葉に理由をつけた。
「恐らく、長い話になると思いますから。」
そこに、さっきのような笑いは一切含まれていなかった。
言葉を聞いただけで闘夜は相手の表情が分かるような気がした。
…こいつ、真剣だ。
闘夜は冷や汗を流しながらも再びあぐらをかいた。
「では…、まず自己紹介から始めましょうか。」
あたかも初めから予定していたような口ぶりで女性は言った。
「私は一神 癒姫(ひとがみ ゆき)です。歳は…17歳です。」
闘夜はそれを聞いてなぜか安心した。
…母さんじゃない…。
違うとは分かっていた。
それでも姿も見えない女性の声を聞くと怖くなるものだ。
違うと知れて安心した。
「…って、17歳!?」
闘夜は相手に顔を突き出しそうになりながらも尋ねる。
闘夜は前にいる相手は態度や口ぶりからして自分より年上だと思っていたのだ。
…1つ下なのか。
「ええ、17歳のはずです。」
「のはず?」
急に訳の分からない言葉が出てきた。
自分の年齢にはずをつけるのだろうか?
「まあそのへんは後で詳しく説明させていただきます。」
「うん、分かった。」
納得はし難いが、話を進めるには納得するしかないのだろう。
闘夜は適当に相槌をうって話を進める事にした。
…とりあえず自己紹介を済ませてもらおう。
その後で聞きたい事を聞こう。
そう思ったとき、彼女からまたもや驚くべき言葉が出てきた。
「私はこの世界の人間ではありません。」


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