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愛しのお菊ちゃん
【ホラー 官能小説】

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愛しのお菊ちゃん14-4

いい兆しか?
「ねっ…ここに座んなよ」
僕は依然、残る恐怖を押して。
勝負所とばかりに自分の隣りに貞ちゃんを誘った。

貞ちゃんはアイデンティーを保つ為か、ジッと僕を睨み続けたままだけど。

「ここ座んなって」
笑顔の僕。
間違いなく貞ちゃんの憎悪や悲しみを癒してあげよう思ってる。
これが鵬蓮さんの言ってた僕の資質かなぁ。

そして根負けしたのか。
貞ちゃんがフラフラと近づいて来た。

僕は例によってチムドンドンだけど…。
「さぁ」
頑張って笑顔で貞ちゃんを迎え入れる。
やった!貞ちゃんがフワッと僕の横に座った。

座ってもまだ上目遣いに僕を睨んでいる貞ちゃん。

僕も負けじと笑顔で応酬。
けどさ…真横にくるとスケスケ具合が余計に鮮明で…何やら妙な気になってきちゃう。
いかん…いかん…僕にはお菊ちゃんがいる。
僕はムクムクと芽生え始めるスケベ心を押し殺して。
「なんでそんなに悲しそうなの?」
貞ちゃんの激しい憎悪は悲しみさえ癒せば直る。
そう信じて貞ちゃんの心に入ってゆく努力を始める。

僕を依然と睨み続けてる貞ちゃんだけど。
その眼差しは少しづつ憎悪よりも悲しみだけになってきた気がする。

よし!間違いない!
「僕で良かったら話してみてよ」
僕は勇気を出して貞ちゃんの手に自分の手をそっと重ねる。
わっ!冷たっ!
でも何だろう…こんな冷たい手で彷徨ってたの?
そう思うと何か貞ちゃんが可哀そうに思えてきた。

貞ちゃんの目は悲しみと狼狽の色合いが益々濃くなる。

「ね…話してよ、きっと少しは楽になるよ」
恐怖は殆ど消えてる僕。
貞ちゃんの冷たい手をギュッと握ってあげる。

その手を驚いたように見つめる貞ちゃん。

「貞ちゃん」
僕はその手を握りながら優しく促す。

貞ちゃんの両肩が小刻みに震えてる。

僕はもう半身、身体を貞ちゃんの方に向けると。
空いていた方の手も貞ちゃんの肩にそっと乗せる。
しかし…華奢な肩だ。
益々、貞ちゃんが可哀そうになっちゃうよ。
僕のそんな思いが貞ちゃんに届いたのか。

「あ…愛する…人に…裏切られ…」
トツトツと貞ちゃんが話し始めた。
「殺され…投げ込まれた…井戸の中…死んでも…死に切れず…」
貞ちゃんの震えが大きくなってきた。
泣いてるみたい。
「もがき…苦しみ…朽ちてゆく身体…辛かった…苦しかった」
やっぱり泣いている。

そんな目にあったら…幽霊になっても当然だよ。
僕の瞳もいつしか涙で潤んでいた。
貞ちゃんが可哀そうで…可哀そうで仕方なかった。
「もう…大丈夫だよ…貞ちゃん」
僕は貞ちゃんの細い身体をグッと抱きしめる。
その細さ、冷たさが寂寥感を増してくる。
「もぅ終わったんだよ…いつまでも辛い思いをしていないで…楽になって」
僕の心からの願いだ。


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