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愛しのお菊ちゃん
【ホラー 官能小説】

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愛しのお菊ちゃん12-1

僕は負けない


そのお寺は来る道すがらによく似合った。
古くて小さなお寺だった。
年季と埃の積もった薄暗い本道には…。
木彫りなんだろうけどやたらとセクシーな感じの菩薩像がデンと鎮座している。
その菩薩像に背を向ける様に腰を下ろした鵬蓮さん。
「どうぞ…お座り下さい」

その鵬蓮さんに促されて僕は…。
開かれた境内の方に背を向けるカッコで正座した。

「楽にして頂いて構いませんよ」
そんな僕を見て、その柳の葉の様な双眸に薄い笑みを浮かべ続ける鵬蓮さん。

「い…いえ…平気です」
いつになく真剣な僕。
膝を崩す事なく真っ直ぐに鵬蓮さんを見つめ返した。

「では…」
右手の先を口許にあてて、くくくっ…って笑う鵬蓮さん。
こんな事、言ったら失礼なのかも知れないけど…その雰囲気はお菊ちゃんより幽霊っぽい。
「早速ですが…貴方様の周囲にはこの世の物とは思えない気が渦巻いております」
鵬蓮さんの目から薄い笑みが消えた。

僕は何と言っていいか、判らずにただ鵬蓮さんを見つめ続けるしか出来ない。

「生身の人間である貴方様がこの様な気を纏うとは、この世のものでない者と情を持った証しでございます」
たたみかけてくる鵬蓮さん。
やっぱり…お菊ちゃんの事だった。

でも…怯むな僕。
はっきり言わなきゃ…それがどうしたって!
「そ…そ…それ…それ…」
けど次の言葉が続かない僕。
やっぱり極度の緊張に見舞われてるみたいだ。

「あまり…いえ…決して、お勧め出来る事ではありませんよ」
僕の言葉を先回りした様な鵬蓮さんの言葉。

多分…この人に隠し事は無理だな。
本当の意味で腹を括った僕は…。
「どうして!僕たちは真剣に思い合ってるんです!」
譲れない思いを口にする。

「しかし…このままでは命に係わる事になりますよ」
興奮気味の僕に反して鵬蓮さんは何処までも冷静。

「そ!そんな!お菊ちゃんはそんな悪い子じゃありません!」
半分涙目になってくる僕。
激昂してきそうな気持ちが止まらない。

「いい子…悪い子の問題ではありません、普通の人間がこの世のものではない者と情を交わす事に無理があるのです」
僕を諭す様にどこまでも冷静な鵬蓮さん。

僕は…。
僕は正直、死ぬのは怖い。
けど…。
けど、お菊ちゃんの手を放す事なんて。
お菊ちゃんを失う事なんて出来ないよ。
気がつくと涙が溢れてきていた。

「悪い事は言いません、私の徐霊をお受け下さい」
優しさを込めた様な鵬蓮さんの言葉。

けど…僕にはその優しさは届かないし、受け入れる事だって出来ない。
僕は何も答える事なく境内へと飛び出していた。



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