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さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

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第四章 昭和十一年〜桜〜-3

「ハルちゃん」
「…幸蔵さん!」
助手席から顔を出したのは、百瀬町長のご長男の幸蔵さんだった。
「ご一緒だったんですね」
「うん。すごい荷物だったけど、大丈夫かい?後ろ…荷台だけど、乗っていきなよ」
車から降りて、私が抱えていたお味噌を受け取り、荷台に積んでくれる。
背の高い後ろ姿。
少しくせのある、柔らかそうな髪に白い肌。
穏やかな声。
私より五つ年上の幸蔵さんは、初対面の時からとても優しいお兄さんだった。
それなのに、どういうわけか私は、幸蔵さんに会う度に緊張して息苦しくなってしまうのだ。
どこまで私はひねくれ者なんだろう。
「ハル、乗りなさい」
「…町長さん。すみませんが、荷物だけ自宅にお願いします。いい天気だし、私は散歩しながら帰りますから!」
「えっ?おい!」
一礼し、驚く町長さんと幸蔵さんの声を背中に聞きながら、気が付けば私は脇道を走り出していた。
だって、大量の荷物を抱えてボロボロになったこんな姿で幸蔵さんと一緒にいるなんて耐えられない。
「…耐えられない…?」
思わず呟いてしまった。
全速力で駆けていた足が止まる。
ふいに、自分の思考に対して生じた疑問。
辛いからじゃない。
嫌なわけでもない。
近いのは…そう『恥ずかしい』だ。
恥ずかしくて、耐えられない。
この感情は、一体何なんだろう?


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