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さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

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第四章 昭和十一年〜桜〜-7

『私、幸蔵さんを好きなんだ』

…考えてみれば、幸蔵さんの前で緊張したり苦しくなったりするのもつじつまが合う。
「…おい、ハル」
やがて、再び足を止めた良太郎さんが振り返った。
「落ち着いたか?」
ニヤリと笑うその顔が悔しかったけれど。
「…落ち着いたわよ」
それにしても。
「良太郎さん、よく私の気持ちがわかったね。自分自身でさえ気が付いていなかったというのに」
私としたことが、何とも間抜けな話だが。
「…お前のことは、何でもわかってるよ」
そう言って、良太郎さんは笑った。
「…ハル」
「なぁに?」
「この桜、知ってるか?」
良太郎さんが指し示す方向には、周囲と比べてひときわ大きい桜の木があった。
「知ってるよ。『人待ち桜』でしょ」
町でも有名な古木だ。
樹齢何百年にもなるのだとか。
「何でそう呼ばれているのかは知ってるか?」
「それは知らないけど…」
「昔、ひとりの女の人が周りの人間に裏切られ傷つけられたんだって。孤独になったその人は、それでも、最後にただ一人信じていた相手を、この木の下で待ち続けていたんだ。だから…いつの間にか付いた名前が『人待ち桜』なんだって」
…知らなかった。
「それで、その相手の人はちゃんと来たのかしら?」
「さあ?それは知らない。昔語りの結末なんて、それぞれの胸の中にあればいいんだよ。ただ…」
「ただ?」
「ハル。人は誰しも一人じゃ生きていけないんだ。強くありたいと願うお前の気持ちはわかるけど、望んで孤独になろうとするなよ。…俺は、いつもお前の味方でいるから。この先も、ずっと」
「良太郎さん?」
「――約束、だからな!」


子どもだったから、私。
この時、全速力で走り去っていく良太郎さんの想いになんて、全く気付くことができずにいたけれど。
この『約束』が、やがて二人の――永遠に、なったんだ。

第四章 昭和十一年〜桜〜(終わり)


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