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さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

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第1章 夏の日-1

さよならの向こう側
第1章 夏の日


父が運転する我が家の愛車は、渋滞する都内の高速道路をようやく脱出したようだった。
林立するビルの隙間をのろのろと、歩いた方が早いんじゃねぇのかと思うような速度の移動にうんざりしながら手元の携帯ゲームに熱中していた俺も、気がつけばいつの間にか窓の向こうに広がる海の眩しさを見つめている。
8月半ば、太陽は焼け付くような光を注いで、砂浜には打ち寄せる波、その向こうに見える黒い点はサーファーだろう。
父親の生まれた街へと繋がるこの道は、まだ物心つかないくらいに幼かった頃から何度も通った馴染みの景色だ。
でも…そういえば、中学に入学したあたりから、部活やら友達やらと遊ぶ時間を優先し、親と出掛けるなんて恥ずかしいと思い始めたお年頃に突入してからは、すっかり足が遠のいていた。
(…4年ぶりか)

「亮、あんた久しぶりにこっち来て、懐かしいんじゃなーい?」
俺の思考回路をタイミング良く読んだかのようなお袋の、ちょっと浮かれた声。
「あぁ。でも、あんまり景色変わってねぇな」
「そりゃ、そうよ。砂浜なんて何年経ってもたいして変わんないわよ」
…はい、そうっすか。
「亮は、こっちに来るの何年ぶりだー?」
ハンドルを握りながら、性格そのままにのんびりと親父が尋ねる。
「4年だよ。おにぃ、いっつも忙しいって言って、自分ばっかり遊びまくってたじゃん。おばあちゃんだって、すごいおにぃに会いたがってたのにさ」
俺に投げかけられたはずの問いかけは、隣でサンダルを脱いであぐらをかきながらポテチを食い続ける妹の加奈が答えている。
「遊んでねぇよ。高校受験とかいろいろあったんだよ」
半分ホントで、半分ウソだ。
「…そうか。じゃあ、亮はその頃からお袋には会ってないんだったなぁ」
「ばぁちゃん?会ってねぇけど、なんで?」

窓の外に広がる景色は、海岸沿いに延びる道を右折してからはいつの間にか海から遠ざかり、きれいに植えられた野菜が並ぶ畑の中、車はゆるい坂道を登るようになっていた。
「…いや〜お袋、最近かなり調子が悪くてなぁ。まぁ、年だから仕方のないことなんだがな」
少し話しにくそうに切り出す親父を不思議に思った。
「ばぁちゃんが〜?あの人、いつもバイタリティに溢れてんじゃん。風邪じゃね?っつか、また団子作ってあるかなぁ。お盆に行くといつも作ってくれたじゃん。俺、あんこ好きじゃねぇけど、ばぁちゃんが作る団子だけはあんこついてても食えるんだよ。なんでかなぁ」
「…作ってくれるといいな」
やや間を空けて、親父が淋しそうに呟いた。


「いらっしゃーい。よく来てくれたわねぇ」
いつ見てもでかいと思う、親父が生まれ育ったこの家の奥から、久しぶりに会う広子伯母さんの懐かしい顔が覗いた。
親父とお袋が、やれご無沙汰だの土産だのと、これまた来る度に繰り返されるお馴染みのやり取りを始める。
俺にとっては4年ぶりの光景だが、きっと毎年変わっていなかったと断言できるぜ。
「おー、よく来たなぁ。早く上がってこい」
続いて、これまた4年ぶりに会う懐かしい顔。
親父の一番上のお兄さんである、武夫伯父さん。
「亮、よく来たなぁ。お前、全然顔見せないと思ったら、いつの間にかこんなにでかくなりやがって」
ご無沙汰でーすとかなんとか挨拶をしながら、そういえば、以前は見上げていた伯父さんの顔が、今は目線のやや下にあった。
「だろ。こいつ、ここ最近で急に背が伸びてさぁ。俺もぼちぼち抜かれるよ」
後ろから会話に入ってきた親父が、俺の頭をはたきながら座敷の奥へと進んで行くので、俺もその後に従った。
お袋と加奈は、まだ玄関あたりで広子伯母さんとくっちゃべっている。


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