春の陽だまり-2
「北野先輩…」
彼女はコートのポケットにデジカメをつっこむと、ぱたぱたと草をはらう。
「なにしてんの?佐野さん、この辺だっけ?」
「いえ。自転車でフラフラーっと。ここ、れんげがむくむくで気持ちよさそうだったので、つい…くしゅん」
顔を手で覆い、またくしゃみをする。
「風邪ひいちゃった?」
恥ずかしいやら、くしゃみが止まらないやらで、智美はますます赤くなってしまう。
「熱はない?」
「大丈夫ですから」
彼女はあわてたように手を振った。
「じゃ、コーヒー入れてあげるよ、俺んちそこだから」
遥が親指を立てて家の方を指し示す。
「えっ?えっ?」
軽くパニくっている智美。
「い、いいんですか?」
「ああ、うち今誰もいないし。って、あれ?これってマズイかな?どーする?」
彼は口元に手をあてて、さほど深刻でもないくせに考え込んだフリ。
「え?」
「って、俺がブレてちゃ動けないよね。まあ、飲んで帰りなよ」
遥は『なんちゃって』と言わんばかりにニヤリと笑った。
「あ、ありがとうございます」
智美はぺこぺこと頭をさげなから、荷物を持って自転車へ向かった。
実は、智美は遥に会いたくてここまできたのだ。
住所は友達とかのツテで知っていたが、家に訪ねていく程の度胸はなく、電話やメールをするような関係でもなく。
そのままに、遥は卒業してしまった。
それで、春休みになってから何となくここまで来た。
会えたらいいな。と思っていたくせに、本当に会えるとは思ってなくてあわてている。
「ここ」
遥は自分の家を指さすと、智美に向かってちょいちょいと手招きした。
智美は押していた自転車を止めて、荷物を持つと遥についていった。