春の陽だまり-1
春休み。
日差しは柔らか。暖かい。
北野遥はスーパーで弁当を買って帰宅途中だった。
地元の大学に進学が決まっていて、このところのんびりとしていることが多い。
「……いぃ?」
田んぼに茂ったれんげの中からデジカメを持った手が空に向かって突き出されたのだ。
ジー、ジー、ジー。
なににピントをあわせているのか、レンズが上下する。
そして。
シャッターを押したのか、手が沈んだ。
田んぼに寝転がっていたので手が見えるまでそこに人がいることに気が付かなかったのだが、れんげに埋もれた大人の姿は珍しい。
最近は子供が遊んでいるのを見るのも稀だ。
顔は見えない。
「ねえちゃん、 ……なわけないか。こういうことしそうだけど」
遥の姉は2年前に大学卒業した。街の方に就職していて家を出ている。
会社員で休みは土日。
だから、平日の真っ昼間にこんなところにいるはずがないのだ。
日差しを受けて気持ちよさそうだ。
先ほどの伸ばした腕や手の感じだと女性と思われる。
遥は彼女の様子を眺めながら、足を止めることなく歩いていた。
「はっ…くちゅん!」
可愛らしいくしゃみをして、その反動のまま彼女が身体を起した。
「あう。寒いかな?」
彼女は鼻をこぶしで擦った。
と、道を歩いていた遥の方に視線をむけた。
「あ」
彼女は遥の存在に気が付き、顔を赤らめていく。
「あれ?佐野さん?」
彼女は遥の高校の後輩だ。遥は美術部、佐野智美は写真部で部活自体は違うのだが、写真部も美術部も美術室で活動をしている。
写真部は暗室作業ができる部室があるが、本当に作業するだけの狭い部屋だ。
もっとも、デジカメとか携帯を使うことが多く、フィルムを使ったとしてもプリントに出したりしてしまうので部室は開店休業状態だったりする。