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God's will
【その他 官能小説】

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Conversation with a man who regains it-1

    5



 静止した世界に存在する北海道留萌市には死体が溢れている。首吊り死体だけではない。中には手首を切って死んでいる物もいる。服毒自殺を図ったのか、口から血を吐いて死んでいるものもいる。

 僕は宮下勉君としての<僕>が辿ったのと全く同じルートを辿りながら、それらの死体を横目に見る。死体についての共通点は、その全てが自殺であるということにある。勿論、人間の死に方にはたくさんある。病死もある。事故死もある。何らかの原因による突然死もある、老衰して寿命を全うするケースだってある。でも、静止した世界の留萌市には、自殺者の死体だけが満ち溢れている。そこには病死や事故死や自然死の類の死体は一つもない。ここへは何らかの理由で自殺者が運ばれてくるのだろうかと僕は考える。だから由香さんはここにいたんだと僕は思う。宮下勉君はバンゴベの腐って湿った長方形の木材が敷かれている道と、砂利道との間、つまりは静止した世界と、正常な世界との境目を由香さんと一緒にくぐり抜ける事によって由香さんを正常な世界へと引き戻したのだろう。

 それならば、ルカはこの世界にはいないんじゃないのだろうか、と僕は考える。ルカは自殺ではなく、他殺だ。他ならぬこの僕が自分自身の手で首を絞めて殺したのだ。それとも、やはりあれはルカの望んだ死であって、だからあれは正確な意味での自殺とは違うけれど、やっぱり自殺としてカテゴライズされるのだろうか。あるいは、そこに僕の<ルカを殺そう>という意志が余りに希薄だったから、それでやっぱりそれは殺人とはカテゴライズされないのだろうか。

 僕は自分の手のひらを眺める。そして、そこにまだうっすらと残るルカの細い首を絞めたときの感覚を思い出す。その指の間からこぼれ落ちていったものについて考える。



 河川敷をバンゴベへと向けて歩いていると、川に橋がかかっているのが見える。小さな橋だ。橋の下には流れの静止した濁った川があって、その両岸には防波堤がついている。そして、その脇にコンクリートが敷かれたスペースがあって、男の子が立っているのが見える。この世界には生きている人間もいるんだ、と僕は思う。少年も僕と同じように何かに招待されてここまでやって来たのだろうか?

 僕は河川敷から緩やかなコンクリート作りの斜面を降り、川の防波堤の前の少年の元へ向かう。少年は僕に気づいたようで、こちらへ向けて顔を上げる。

「こんにちは」と僕は言う。

 少年は何も言わず軽く会釈をする。近くで見ると、僕が思っていたよりも少年は大人びて見える。体つきもしっかりとしている。でも、顔にはまだあどけなさが残っていて、それで彼が十代の半ばくらいだろうと僕は予想を立てた。

「何してんの?」と僕は十代半ばの男の子に勿論敬語なんて使わない。

「川見てた」

「うん。なんで?」

「いや、なんとなく」

「ふうん」

「いや、俺これから死ぬんだよね」と言って少年は足元から立派なロープを持ち上げて僕に見せる。


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