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God's will
【その他 官能小説】

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Conversation with a man who regains it-2

「え? なんで死ぬの?」

「なんでだろ。もう嫌なんだよね」

「お前、何歳?」

「十五だよ」

「お前、十五歳が死ぬとか言ったら駄目だって」

「じゃあ何歳だったらいいんだよ?」

 と少年に言われて僕は考える。自殺者の数は年間33000人くらいだが、その大半は五十代だったっけ、と僕は思い出して「五十歳くらいになったら」と答える。

「そんなになげーのかよ」

「いや、お前。意外と短いぞ人生って」と僕は言ってみせるが、十代の男の子に人生が短いなんていう概念が理解できるとは思えない。彼らの未来は長く、太く、揺るぎないものとしてそこに存在している。有限であるその時間を、まるで無限のように感じている。だから、例えば僕が自分が五十歳になるのにはまだまだ時間があるような気がしているけれども、いざ自分が五十歳になり、過去を振り返る時、なんだか短かったような気がするな、と思うであろうという予想を、十代の彼が出来るとは思いにくい。彼にとっては、人生というのは余りにも長い。地球から月への距離と同じくらいに。

「ところでさ、なんで死のうと思ったん?」と僕は話題を変える。

「なんかもう飽きちゃった。つまんねー事ばっかだし」

「嘘付け。俺だってつまんねえ事ばっかりだったけどまだ生きてるぞ」

「それはそっちの問題だろ」

「違うって。人間ってつまんねえ事ばっかりあったくらいじゃ死なないように出来てるんだっての。人間が死ぬ時ってのはちゃんと理由があるんだって。それ相応の」と言いながら僕はルカと由香さんの事を考えている。「だからお前にも死ぬ理由があるんだろ? あ、ってかさ、お前って誰かに会いにここに来たの?」

「何言ってんの? ただ死ぬためにここに来ただけだって」と少年は言う。

「お前は死ぬためにここに来た」と言って僕は考える。この静止した世界は、生者が死者に会うためだけに存在している訳じゃないんだ、と僕は思う。実際に死を覚悟した奴もここにやって来るんだ、と考えて、僕ははっとする。それならば、この少年は本当に死のうとしているということになる。簡単な気持ちで死んじゃおうかななんて思っているだけの奴はこんな世界に来たりはしない。僕自身、何度かはもう死んじゃおうかな、と思うだけは思ったことがある。でも、その時僕はこの世界へは来なかった。だから、この少年がここにいるという事にはそれ相応の意志がある。意図がある。決心がある。

「駄目だっての!」と、僕は怒鳴る。僕は心のどこかではきっと大して死ぬ気なんてないんだろうと思っていたのだが、そんな余裕が一瞬にして消え去る。

「いや、もう決めたし」

「お前な、生きるとか死ぬとかって、簡単な事じゃないんだぞ。お前が死んだら色んな人が悲しむし、苦しくてどうにかなっちゃいそうになるんだぞ。お前のせいで、他の誰かが辛くて苦しくて泣いて泣いて泣いて泣いて、そんでそいつまで死んじゃったら、お前責任とれんのかよ?」

「俺が死んだって誰も泣かないし。親もいねーし。友達もいねーし。ってか俺今親戚のところにいるんだけど、そいつらなんて普通に俺に死ねって言うし」

「いるって。俺が哀しいんだって」

「はあ? バカじゃねーの? 今会ったばっかりじゃん」

「今会ったばっかりだけど、哀しいって」

「ふうん。でも、俺死ぬから」

「いや、お前駄目だって」と僕は言うが、少年は僕に止められるのを避けるためか、首吊り自殺を諦めて、流れのない淀んだ川へ飛び込む。僕が止める間もなく、少年の姿は川に飲み込まれて見えなくなる。

 畜生、と僕は呟いて、少年に続いて川へ飛び込む。




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