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さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

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第三章 団子と朝顔-4

俺は頑張った。
ここはアフリカか!?と、思わずツッコミ入れたくなるくらい猛暑の中をチャリンコで疾走し…失速し…やがて失神しそうになるその直前で、ようやく無事に『虹の橋』に辿り着いた午後の2時。
それも、広子伯母さんの昭和仕様なママチャリで。
昨日、武夫伯父さんの車で来た時には割と近くに思えたんだけど…侮るなかれ隣町だったぜ。

昨日と同じく、エレベーターの階数表示が『2』を示したところでフロアに降り立つ。
廊下の向こうにあるホールには、今日もじぃさんやばぁさんたちが集まってきていた。
「亮くん!良かった、来てくれたんだ」
ウロウロとばぁちゃんの姿を探す俺の耳に、よく通る明るい声が響く。
「…和泉さん」
「昨日、私が無理やり声掛けたかんじだったから、嫌だったんじゃないかって気になってたんだ」
顔の前で両手を合わせて『ごめんね』の仕草をしながら、小柄な彼女が俺を見上げる。
「すっごい汗だー。今日は一人みたいだし、駅から歩いて来たの?」
「あ、チャリンコで…」
「え!?自転車?…さすが高校生、若いわ〜」
自分だってたいして変わりないだろうに。
大げさに首を振りながらぶつぶつ言ってる和泉さんが面白くて、俺は昨日に引き続きまたしても吹き出してしまう。
ホント、この人オーバーリアクションだわ。
「こら、沙知。おばはんかお前は」
ふいに、スタッフルームの奥から声が掛かった。
それも、やや低めの爽やかな声。
(…男?)
「あ、主任」
振り返った和泉さんの視線の先から登場したのは、背の高いイケメンだった。
30歳くらいだろうか。
「初めまして」
やべぇ、俺ジロジロ見すぎたかな。
爽やかイケメンは、俺のそんな視線に気がついたか、これまた爽やかに微笑みながら挨拶をくれた。
「介護主任の高柳です。百瀬さんのお孫さんの亮くんでしょ。いつも、おばあちゃんから話は聞いていますよ」
「…ばぁちゃんは、俺のことわからないみたいですけど…」
介護主任がイケメンだった意外性に押されてか、俺はうろたえ気味にボソボソと呟いてしまった。
…昨日から、とことん情けねぇ続きの俺。
「違うの、亮くん。百瀬さん、ちゃんと思い出す時もあるんだよ」
俺のへこみ具合をばぁちゃんのことで落ち込んだと思ったのか、和泉さんが少し慌てたような様子で否定してくれる。
「…そうなんですか?」
「うん。日によってだいぶ状態に違いがあるし、何をしているかによっても反応が変わったりするから、必ずってわけじゃないんだけど…」
「それをわかってほしくて、和泉は君を呼んだんですよ。なぁ、沙知。明けでしぶとく待ってた甲斐があったな」
「明け?」
絶妙なタイミングで会話の掛け合いを交わす2人を、何だかちょっと面白くない気持ちで見つめながら、俺はふと気になった言葉をオウム返ししてしまった。
「あぁ。和泉は今日、夜勤明けなんですよ。昨日、亮くんと会った後から勤務に入って、今朝の9時まで仕事だったんです」
「マジで!?」
こんなちっさい女の子でも夜勤をするんだ…。
思わず、まじまじと和泉さんを眺めてしまう。
「入所施設だからね。24時間体制で必ず誰かが勤務してるの」
言われてみりゃ、確かにその通りだ。
ばぁちゃんを含めここにいる人たちは、何かしら必ず介護が必要な状態なのだから。
でも…。


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