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さよならの向こう側
【悲恋 恋愛小説】

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第二章 合わない視線-3

「あれ〜?百瀬さんの息子さん?」
突然、頭上から声がした。
それも、若いオンナの声。
(誰だよ?)
「あぁ、和泉さん。どうもいつも母がお世話になります」
泣きそうになっていた顔を上げるより先に、武夫伯父さんの声が耳に届いた。
「健太郎、亮。かぁさんの担当をしてくれているケアワーカーの和泉 沙知さんだよ。最近の様子とか、生活していて足りないものがあった時とか連絡を下さるんだ」
涙はこぼれなかったけど、垂れてきそうだった鼻水をすすりながら顔を上げた。

(…中坊か?)
そこには、武夫伯父さんの言う『ケアワーカーの和泉さん』らしき、やけに小柄で幼い女がニコニコしながら立っていた。
半袖のポロシャツにジャージ姿。
『ケアワーカー』という聞き慣れない言葉は、たぶんばぁちゃんたちの世話をしてくれている職員さんってことなんだろうな。
それにしても…。
俺、こういうところで働く人っておばちゃんばかりだと思っていたんだけど、この和泉さんって、たぶん俺とそういくつもかわらないくらいの歳だろう。
(さすがに、印象通りの中坊ってことはないよな)
「和泉さん、弟の健太郎とその息子の亮です。ちょうどお盆でこちらへ来ておりまして…」
「いつも母がお世話になっています」
長椅子から立ち上がり挨拶をする親父に倣って、俺も頭を下げる。
「いいえいいえいいえいいえ、こちらこそ」
「……プッ」
(あ、ヤベェ。吹いちゃった)
だって、リアクションでかいんだもん、この人。
『いいえ』って四回言ったぞ。
「…なんですか?」
あ、笑顔だけどちょっとだけムカつきましたって顔してる。
なおさら面白ぇ。
「こら、亮!」
「イテッ」
足踏みやがったな、親父。
「百瀬さん、お母様ご一緒じゃないんですか」
気を取り直すかのようにして、彼女が武夫伯父さんに尋ねた。
「いや、さっき向こうへ歩いて行ってしまって…」
「あぁ、そうだったんですか。じゃあ、探してこちらへお連れしますね」
明るくそう言い残し、和泉さんはばぁちゃんが歩いていった方向へ消えた。
「〜〜亮!お前は一体どれだけ失礼なヤツなんだ」
「いてぇって!」
今度は頭をはたかれた。
「別に、バカにしたわけじゃねぇよ」
「してるだろうが!」
おぉ、のんびり屋の親父が昨日に引き続きキレている様子。
でも、確かに昨日は俺の浅はかな悪ふざけだったけど、今は違うんだよ。
あの『和泉さん』の自然体が、ショック状態だった俺にはほっとしたんだ。
上手く言えねぇけど、今のばぁちゃんの傍に彼女のような人がいてくれたっていうことが、なんだかちょっと安心したんだよ。
でも、面倒くさいから親父たちには言わないでおくけどね。


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