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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-4

「これって……ホントに俺?」
(というより、俺を見て描いたのか?)
「少しサービスしてあるけどね……」
 サービスというより、むしろモチーフにされただけなのかもしれない。
「ふーん、そうだ、先輩は絵を描いてどれぐらいなんですか?」
 ある程度の筆力を持つわけだから、それ相応の年季があるのだと推し量れる。
「私も高校に入ってから美術部だから、丁度一年ね……多分、来年の春には君もこれぐらいの絵を描けるようになるんじゃない?」
(君もこれぐらいの絵を描ける? あぁそっか、俺も美術部員なんだ)
「でも、俺は道具持ってきていません」
「まったく、それでよく美術部員になろうとするわね」
 第一希望欄に記入したのは、はるかのはずだが、今更言い合う気にもなれない。
「仕方ないわ、とりあえずそこら辺にある、先輩達の忘れ物でも勝手に使いなさい」
 最初からそのつもりであった秀人は、最初に来たときに目をつけていた、比較的新しいキャンバスを選ぶ。窓際の所為で日に当たったらしく黄ばんだ染みがあるが、それでも既に下絵が描いてあるものよりはいい。
「……秀人君、それは他人のだから使っちゃダメ」
「え、でも、どれを使っても……」
「いいから、それはダメ……」
 どれも他人の物なのだが、はるかは別のキャンバスを指差し、それを使うように指示するので、特に逆らう理由の無い秀人は素直に従う。
 本当はもう少し気になるコトがあるのだが、気のせいと口をつぐみつつ……。
***
 美術用具など何一つ分からない。
 格子戸のようなデスケルに付箋紙の束のような標準色カード、間接の再現率が気持ち悪いぐらいリアルな人形……どれも普段は目にしないようなものばかりで、秀人には新鮮に見えた。
「でも、道具があっても俺は何を描けばいいんですか?」
(まさか先輩がモデルになってくれたりして……いやいや、この人にそれを期待するのは無駄。おかしな妄想を見破られる前に、何か適当なものを探さないと……)
 辺りを見回し、一番最初に目が向かったのは先日運んだ彫像。とはいえ少し難易度が高い。もう少し奥を見ると、網籠の中にプラスチックのバナナとリンゴがあったので、とりあえず持ってくる。
「ま、初めてならフルーツを描くのが無難ね。腐ることも無いし、文句も言わないし。そうだ、このキャンバス汚れてるから使っていいわよ」
 描きかけのキャンバスをイーゼルから外し、はるかが渡してくれたものを代わりに置く。
 画筆は手入れを怠っているらしく、先が固まっているが、先端を切ればまだ使える。パレットもやはり汚れているが、四、五色も使わないだろうから特に問題は無い。秀人は早速エンピツ(しかもHB)を走らせる。
「ちょっと、まさかエンピツで下絵を描く気?」
 そう言われても、ずぶの素人である秀人には、他に思いつくものが無い。というより、何で描けばよいのか混乱する。
「あのねぇ、小学校のお絵かきじゃないんだからエンピツなんか使わないの。いい? 普通はこういう木炭を使うのよ」
 はるかはティッシュでくるんだ、太いエンピツの芯のようなものを秀人に差し出す。秀人がそれを受け取ろうとしてもはるかはそれを離そうとせず、代わりにもう一方の手を差し出し、何かを催促する。
「なんすか?」
「一本二百円になります」
 どうやら金を取るつもりらしいはるかに、しぶしぶと財布を取り出す秀人。それでも他の道具は誰かのお下がりを使うわけだし、そこまで文句は言えない。
 代金を支払い、今度こそ絵を描くぞとキャンバスに向かう。しかし、その後ろでジーっと音がでるくらいに睨まれると、思うように作業が出来ない。


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