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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-1

 春、四月の後半。
 遅咲きの桜も衣替えを行い、新生活に戸惑っていたフレッシュマン達の顔からも不安が薄れ、徐々にぬるま湯のような緩さを覚え始める。
 そんな中、高山秀人は一枚の紙に目を通しながら、顔をしかめていた。
 紙には『入部届け』とあり、ご丁寧に第三希望まで記入できるようになっている。
 彼がこの春入学した私立一之瀬高等学校は部活動を強制していない。したがって、特に希望する部がなければ無理に入る必要もない。しかし、帰宅部という学生は稀であり、仮にそうであってもアルバイトなどをしている者がほとんどで、放課後を暇で持て余そうとする者は少ない。
 秀人は第一希望にサッカー部と書いていた。しかし、望みは薄い。一之瀬は全国レベルではないものの、毎年県の大会ではなにかしら結果を残している中堅校。対し、秀人は中学時代、全て準レギュラー止まり。一度だけ出た試合でもボランチといえば聞こえはいいが、試合の鍵を握るポジションではなかった。
 おそらく入部テストではじかれるだろう……そう考えると憂鬱だった。
 とりあえず希望欄は空白にして、適当に部活見学をする。
***
 体育館に行きバスケ部。背が足りないのでパス。
 グラウンドに向かい野球部。ケツバットが痛そうなのでパス。
 プールに行って水球部。地味なのでパス。
 テニスコートに向かいテニス部。女子部とは別らしいのでパス。
 プレハブ小屋を覗いて卓球部。卓球はスポーツという感じがしないのでパス。
 道場関連は向かう前から汗臭いので、見学自体パス。
***
 結局、決断することができず、下校時刻を迎える。しかし、クラスメートの大半が既に仮入部を行い、青春の汗を流していることを考えると、放課後に暇を持て余す自分が惨めに思えてくる。そんな焦燥感にさいなまれながら、本日何度目となるか分らないため息をつき、秀人は教室を出た。
***
「ちょっと君!」
 突然の声に振り向くと、石膏像を持った女生徒が一人。
「えっと、俺?」
「君以外に誰がいるの?」
 周りを見ても自分以外に対象はいないが、秀人はその女子を知らない。それでも無視するわけにはいかず、駆け寄ることにする。
「持って」
 女子は秀人に石膏像を差し出す。
「なんで、俺が」
「なんでって、女の子が重い物持っているのよ? 普通、男なら自分から持つべきじゃないかしら?」
「はぁ、すいません……」
「『はぁ』じゃなくて『はい』、返事は元気良く!」
「はい、解りました!」
「よろしい」
 その返事に気を良くした女子は、道案内のつもりかさっさと先を行く。秀人は黙ってその後に続いた。


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