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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-3

***
 その日から秀人の学校生活は変わった。
 一言で表せば、華が添えられたわけだが、その真実を知るものはおらず、親しい友人も『春だから』と片付けていた。
***
 放課後が待ち遠しい……。
 そう思えたのはスタメンを約束された新人戦のとき以来(活躍といえば、相手チームのエース格の選手にタックルをしかけられ、派手に転んだ所為で、相手がレッドカードをもらったというモノだったが)。分野こそ、体育会系から文系になったが、それでも有り余るぐらいの幸せが待っている。なにせ秀人には……。
「おい、高山!」
「なに、えっと……」
 振り返るとクラスメートの石垣聡史が箒を片手に近寄ってくる。
 目がやけに離れていることと浅黒くにきびの多い面構えからイボガエルと影口を叩かれているらしい。
 ただ、秀人は特に親しいわけではないので咄嗟に名前が出ない。
「掃除当番代わってくれないか?」
「なんで俺が?」
「俺、サッカー部の練習にでないといけないんだよ。ほら、うちの学校、今年こそベストエイトの壁を打ち破るぞって燃えてるだろ? 期待されてるんだよな、俺」
 嫌味にしか聞こえない。それに、それと掃除とどう関係するのだろうか?
「それで、なんでお前の代わりにやらないといけないんだ?」
「お前もサッカー部希望だったろ?」
 確かに入部希望の第二希望には未練がましくサッカーと書いた(第一希望ははるかに美術部と油性ペンで書かれた)が、それはあくまでも過去の話であり、当然ながら部員ではなく、義理を立てる理由もない。
「だからさぁ、サッカー部の役に立ちたいんじゃないかと思ってさ。な、頼むよ」
「お前……」
「石垣!」
 ふざけるな。そう言おうとしたところで、教室の入り口で誰かの声。どうやら目の前のクラスメート(メートというほど親しくないが便宜上使う)を呼んでいるらしい。
「スイマセン、先輩! ……じゃ高山頼んだぞ……」
 そう言って走り去る石垣。残された秀人は箒を持って立ち尽くすだけ。このままさぼってもいいのだが、掃除当番は軽薄そうな男子と非力な女子が数名のみ。仕方なく手伝うことにした。
***
「それで、秀人君は言い返すことも出来ずに掃除を引き受けたんだ。まったく、そういうのは『いい人』じゃなくて『人のいい』って言うのよ? そんなんだからサッカー部の入部試験も落ちちゃうのよ」
 言いたい放題のはるか。その視線の先には頼まれるまま入部した『人のいい』モデルが椅子に座っているのだが……。
 部活見学(はるかに言わせるとそうらしい)の後、正式な部員として美術室に訪れるようになった秀人だが、肝心のはるかが『絵を描きあげたい』と駄々をこねる為、いまだ彼は絵を描くどころか、スケッチブックすら用意していない(本人は適当に放置されているものを利用するつもり)。
「でも、そのおかげで美術部に入れたんです」
「ふふん、別に掛け持ちだって良くてよ?」
「その時は先輩が俺のマネージャですか?」
 思春期にありがちな妄想を存分に含ませる秀人。一方のはるかはにんまりと微笑み……。
「お死しになさい。秀人君」
「ですよね……」
 部活が始まってまだ三日も経っていないのだから、それを頼む秀人の方が軽率。当然といえば当然なので、特にへこむことも無い。
「はい、出来たっと」
 ようやくはるかが鉛筆を置いたので、自分がどのように描かれているのか気になっていた秀人はいそいそと向かう。
「どうかしら?」
 ケント紙に描かれているのは、何かを憂いているように右斜め下を向く秀人。
 本物と比べて眉毛が細く整っており、鼻もすらっと高い。しゃくれているハズの顎も微妙に削られていて、全体的に修正が施されている。


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