投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Yuki
【ホラー 官能小説】

Yukiの最初へ Yuki 1 Yuki 3 Yukiの最後へ

Yuki-2

陽が落ちても粉雪は止まなかった。
素泊まりで正解かどうか判らないが私は夕飯を食べに外に出た。
まあ、あのラウンジもどきから考えれば素泊まりで間違いは無かったと思う。
誤算は色々とあるが…だが旨い物を食べに来た旅行ではない。
私は酒の置いてあるコンビニエンスストアの横にある小料理屋に入った。
割烹料理屋と定食屋の中間くらいの店だった。
暗い感じの中年男とその連れ合いらしい派手な化粧の中女性二人きりの店だった。
四人掛けのテーブル席が四つと五、六人座れるカウンター席。
一人で入るには充分な広さだった。
私はカウンターの角に座ると壁に掲げられたメニューを見た。
漁師町らしく魚料理が中心の様だ。
メニューの横には誰か判らないサインと、やはり誰か判らない水着の女性が生ビールを持っているポスターが貼られてあった。
両方共かなり色褪せているところを見ると、それなりに長い期間営業してきたようだった。
私はこれくらい贅沢は許されるだろうと思える料理と瓶ビールを注文した。
お通しと瓶ビールが出てきた。
私は冬でも飲む時は最初から最後までビールだった。
お通しはツブ貝の佃煮の様であった。
別に私自身はグルメと言う訳ではないが味は充分に旨かった。
次に運ばれてきた刺身の盛り合わせも、それ程肥えていない私の舌には充分過ぎる味だった。
店の主の中年夫婦もあまり話し掛けてこない。
どうやら素泊まりで正解だったようだ。
私は都合四本の瓶ビールと刺身の盛り合わせ、ホッケの塩焼き、タラの芽の天ぷらとささやか晩餐を小一時間に渡って堪能した。

小料理屋での夕飯の後、私は隣のコンビニエンスストアで350mlの缶ビール三本とミックスナッツを一袋買ってホテルに戻った。
飲みに出る気などは更々無かった。

部屋に戻りシャワーを浴びると備えつけ浴衣に着替えた。
別に見たい番組がある訳でもないがほぼ習慣的にTVを点けた。
今の時代、都心と田舎で極端にTVの番組は変わらない。
見覚えのあるバラエティー番組を放映していた。
椅子に座るとコンビニエンスストアの袋から缶ビールを一本取り出しプルトップを開けた。
首を回す。
首筋がズキンと痛んだ。
長時間、電車に座っていたダメージは僅かながらあるであった。

やはり何処かに旅先と言う思いがあるのだろうか。
三本の缶ビールはあっと言う間に空になっていた。
仕方ない、私はルームキーと小銭を持つと自動販売機に向かった。

「こんばんわ…」
缶ビールを取ろうとしゃがみ込んだ時だった私は背後から声をかけられた。
私は缶ビールを手にゆっくりと振り返った。
薄暗い闇が自動販売機の灯りにぼぉっと光っている。
その灯りの中に東南アジア人らしき女性が立っていた。
「こんばんわ…」
私は口元を歪めて挨拶を返した。
私も三十後半のいい大人だ。
彼女が何故、此処に立っているかぐらいは見当がついた。
しかし見たところはフィリピン人の様だが何人だろう。
今は滅多に飲み歩かないが…これでも二十代の頃はよくフィリピン人の店に出入りした。
最近は全くと言っていい程フィリピン人にはお目にかかってないが。
彼女達の国の事情もあるし、今の日本はそれ程おいしい職場でもない。
こんな所でお目にかかるとは思わなかった。
実はタイとかベトナムの女性とか?
いや自分の目が確かならフィリピン人だ。
旦那がいてこっちに住んでいるなら有り得る話だ。
「お兄さん…お部屋で飲みませんか?」
何処か控え目な感じで女性が話しかけてきた。
私もごく普通の男だし…出張という事で財布にも余裕を持たせてきた。
「ダメですか?」
“まぁ…いいだろう偶には”そう思わせる雰囲気を持った女性だった。
「いくらだ?」
「オールナイトで三万円…」
女性は少しだけ済まなそうな顔をした。
まぁ相場と言えば相場だ。
「いいよ…おいで」
俺は更に数本の缶ビールを買うと女性を部屋に招き入れた。


Yukiの最初へ Yuki 1 Yuki 3 Yukiの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前