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Yuki
【ホラー 官能小説】

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Yuki-1

私は東北のとある漁師町に出張で向かったのはもう年の瀬も間近か頃だった。
中学の頃まで近くの町に住んでいた私はどこか里帰りに似た気分でその町に向かった。

その町に到着したのは午後三時少し回ったくらいであったが。
その町の空は灰色で雪の早い地方の為か多少吹雪いていた。

廃船同様の船が数隻、コンクリートの陸地に引き上げられている。
干された置網が乾ききり風にたなびいている。
私は寂れた港にある魚業組合の入っている更に寂れたビルに向かった。
粉雪を含む海からの風は身を切る様に冷たく。
ビュウビュウと鳴く様なその音は寂寥感を益々かき立たせていた。

電話とファックス、電子メールを使い粗方の段取りは組んでいた為…商談は判子を押すだけの簡単なモノだった。
顔を合わす事が目的の様な商談は三十分もしないで終了した。
数年前なら“この後、一杯どうですか?”みたいな流れになったのだろうが、ここ数年の不況だ。
相手にそんな余裕はない様だった。
もちろん私にもだ。

早々に相手方の事務所を引き上げるとビジネスホテルのある町の中心へと向かった。
今も営業しているのかどうかも怪しい飲み屋、場違いとも思える様なパチンコ屋、誰を相手にしているかよく判らないお土産物屋。
そして辛うじて食いつないでいる感じの商店。
さらにこればっかりはやはり目につく数件のコンビニエンスストア。
港だけでなく町全体が寂れていた。
里帰りに似た気分はとうに廃れて私は目的のビジネスホテルへの道を急いだ。
商店街のBGMとして流しているのだろうか。
津軽三味線の音色だけが灰色の商店街に流れていた。

その町に似合ったホテルだった。
フロントには蝶ネクタイをつけた老人が眠そうに鎮座していた。
チカチカと点滅を繰り返す蛍光灯の下、私は予約してあった自分の名前を告げてルームキーを受け取った。
部屋の案内も非常口等の説明も無かった。
もっともそんな物を期待していた訳でもないが。
ラウンジの真似事なのだろうか。
合成皮のソファと丸テーブルがポツリと置いてある。
そのテーブルの後ろには煙草とビールの自動販売機だ。
これは後でお世話になる可能性が大なのでチラリと一瞥をくれた。
煙草は社会的に値段は決まっているが…ビールは500mlの缶で500円。
ビールの料金だけは一流ホテル並みだった。

EVで4階に上がった。
このホテルの最上階だった。
部屋は405号室。
ご丁寧に404号室は欠番にしてある。

簡素なベットに机、椅子。
テレビ台にテレビ。
ペイチャンネルも付いている様だがわざわざこの部屋で見る必要もない。
冷蔵庫は?…ない。
外で買って持ち込んでも冷やしておけないと言うわけだ。
一応建物の中は暖房は効いている。
外に出しておくと温くなるのは目に見えていた。
取り合えず今は一本500円のビールで我慢しよう。
私はコートを脱ぎ、ネクタイを外すと今来た経路を逆に辿りビールの自動販売機に向かった。


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