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過ぎ行く日々、色褪せない想い
【学園物 官能小説】

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過ぎ行く日々、色褪せない想い-36

 ファイルのタイトルには2009_xxxx_kazukoとあったのが見えた。彼女は一番説得力のあるものを選んだのだろう。ドアから漏れる喘ぎ声は、間違いなく後輩のものだから……。
「先輩、俺はコイツを赦せません」
「俺もだ。だけど、まだ抑えろ」
「……はい……」
 自由恋愛の結果ならばまだしも、最初から性欲目的の行為。さらにはそれをネタにした脅迫。当事者の恋人ということを廃しても、赦せる行為ではない。
 本来なら白日の下に晒してしまいたいのだが、それは数々の不幸を明るみにすること。
 未だ躊躇してしまう。
「……終わったよ……、もういいよ、入ってきて……」
 再び部室に入ると、動画はストップされていた。
 美琴は今も信じられないという様子だが、牧夫を見つめる瞳には、先ほどの哀れみなどは無い。
「牧夫、これはどういうことなの? 納得の行く説明が欲しいわ……」
「違うんだ、聞いてくれ! これは、その、脅されたんだ。部員に、他の奴らに脅されて、仕方なく作ったんだ。俺が悪いんじゃない」
「ウチの動画は?」
「ないさ。そうさ、美琴。俺はお前を愛しているんだ。本当さ。だから撮影だって断ったんだ。けど、そうしたら……」
 勢い任せにでたらめを言う牧夫だが、焦る分だけ良くすべる舌がすぐに言葉を枯渇させ、続きが出てこない。
「そうしたら和子さんのことを脅迫するように言われたん? ちがうよね。誰もそんなこと信じないよね? どうなの? ねぇ、教えて……」
「いや、だから、それは、俺は、俺じゃない……、こんなの……違う。誰かが嵌めるために……、そうなんだよ! この前こいつらが勝手に部室に入ってパソコン弄ってたんだ。だから、あの映像は、こいつらの……」
「牧夫のほくろ、見えたよ。お臍の近くにあるよね」
「いや、それは汚れぐらい……」
「もし和子さんと悠の作ったものなら、どうして牧夫のほくろがそこにあるってわかるの? 裸見ないとわからないじゃない。和子さんとそういうことがないとわからないよね? どうなの? 言い訳する?」
「……はは、ははは……あはは」
 突然笑い出す牧夫はゆっくりと立ち上がる。何をされるかわからないと、弘樹はそれをしっかり抑える。まるで警察の捕り物のようで、牧夫は身じろぐも抜け出せない。
「なんだよ。勝ち誇った顔しやがって! ああ、そうだよ。その男優は俺だよ。出てるのも和子さ。去年だから中学生か? 貧弱な引きこもり女を相手に俺もよくやるよな? 名演技だと思わないか? なぁ? 和子だって散々よがってたし、動画みたならわかるだろ? こいつはさ、たしか四、五回くらいイッタんだぜ? 俺のちんぽが気持ちいいとか叫びながら……。ああ、そうだ……、お前もそうだったな。初めてのときは泣き叫んでてさ、そのくせ慣れてきたら自分から腰ふってやんの。悠? お前だよな。俺達がエッチしてたときに電話してきたの。ウザイったらありゃしねー。しょうがねえから聞かせてやってたんだよ。俺らの愛の行為をな? それでしこったか? 大好きな美琴ちゃんが他人とエッチなことしてるときの声聞きながらさ!」
 自暴自棄というか、やけになった牧夫は、聞かれてもいないことをべらべらと語りだす。弘樹は怒りで顔を真っ赤にさせ、和子は堪えきれずに泣き出していた。
「いい加減だまれよ……」
 牧夫を抑えていた悠は彼を突き飛ばし、普段なら竹刀を握る手を固め、振り下ろそうとする……と、それより先に美琴が立ちはだかる。
「おい、美琴、そんな奴庇うのか?」
 彼女は目を赤くしていたが、それでも堪え、悠を見ていた。
「違う。悠が、こんな奴殴る必要ないよ。だって、悠は、剣道部があるもん。がんばってウチと一緒に来年大学生になるのに、そんなことして問題起こさなくていいの。だから……」
「だけど、俺は……」
 振り上げた手はとうに下ろしている。あれほど怒りがこみ上げていたはずなのに、今もあるのに、どうしてか頭は冴えていた。
 おそらくは彼女が真相を知ったことと、誤解というべきものが解かれたからかもしれない。
「でも、美琴は平気なのか?」
「平気なんかじゃない。けど、そんなことしても始まらない。今はデータとかそういうのを処分しないといけないし……だから、悠もそれを手伝って欲しいの……」
「わかった。本当に辛いのは俺じゃないしな……」
 部室の隅で泣き出す和子とそれを慰めようとする弘樹。二人もまた辛い立場にあるのだ。
「じゃあまず、……!?」
 拘束が緩んだときを狙ってか、牧夫がドアへ向かって走り出す。


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